■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
労災保険制度には「メリット制」という仕組みがあり、その扱いをめぐって現在、厚生労働省労働基準局の「労災保険制度の在り方に関する研究会」(学識者9名、座長:小畑史子)で議論が行われています。同研究会の論点は広範に及びますが、そのうち近年あんしん財団事件をめぐって話題になったメリット制については、その歴史的経緯を改めてたどり直してみたいと思います。
日本の労働者災害補償保険法は終戦直後の1947年4月7日に公布され、同年9月1日に労働基準法と同時に施行されました。その最初の段階から、保険料徴収におけるメリット制が規定されていました。
第二十七条 常時三百人以上の労働者を使用する個々の事業についての過去五年間の災害率が、同種の事業について前条の規定による災害率に比し著しく高率又は低率であるときは、政府は、その事業について、同条の規定による保険料率と異なる保険料率を定めることができる。
その趣旨について、制定当時の担当課長であった池辺道隆はその著書(『最新労災保険法釈義』三信書房、1953年)において、「メリツト制は保険的性格を損うことなく、しかも…公平の観念に合致し、且つ、災害の減少を期すことができるもの」と述べていました。
もっとも、法律に「過去五年間」とあるように、この規定が動き出すには施行後5年の経過が必要のはずでした。ところが、労災保険財政は火の車で補償費すら満足に支払えない状態が続き、保険料率の改定だけでは不十分で、災害の発生率を減少させることが必要との判断から、急遽1951年3月にメリット制の実施時期を2年早める改正を行い、同年4月から施行されました。
この時、メリット制の適用事業を労働者300人以上から100人以上に拡大しています。また、保険料率の増減の基準を収支率85%超えで引き上げ、収支率75%以下で引き下げとしました。
次の改正は建設事業への適用拡大です。メリット制は前述のように過去3~5年間の収支率で保険料を上下するので、建設事業のような有期事業は適用除外されていました(労災保険則第23条の2第3項)。
池辺によれば「有期事業は、元来一般に期間が短く、しかも、その作業環境が個々の作業と作業の進捗状況によつて異るものであり、また事業の性質上移動性に富み、メリツト制の対象とするには適応性と実益に乏しいから」です。
しかし、建設事業における災害が年々増加する実情に鑑み、建設事業にもメリット制を適用して災害防止を行うべきとの考えが強くなってきました。こうして、1955年8月に法改正が行われました。
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