土曜日, 7月 19, 2025

ハラスメント解決の分かれ目 その②「しらべる」(今津幸子弁護士)

今津幸子(いまづ・ゆきこ)
▶1996年弁護士登録。現在、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士。経営法曹会議常任幹事。人事・労務問題全般の助言のほか、セクハラ、パワハラなどハラスメント問題に関する社員研修、管理職研修なども数多く行う。

■事実調査と証拠で存否を判断する

ハラスメントの相談や申立てがあった場合、事業主としては、最終的には、実際にどのような言動があったのかについて事実調査を行った上で、調査結果に基づき、被害者や行為者に適切な対応をとることが要請されている。事実調査は、被害者がハラスメントだと主張している事実が本当にあったのかどうかを判断していくことになる。

そのため、事業主は、被害者から詳しく事情を聞くとともに、被害者が主張するハラスメントの存否について判断するための証拠を収集することとなる。証拠としては、行為者やハラスメントを見聞きしていた第三者からの事実聴取のほか、メール、SNS、手紙などのやりとりや、写真、録音、録画などの物的証拠の収集が考えられる。

■プライバシー保護、フォレンジックも

事情聴取を行う際は、「プライバシーの保護」の観点を忘れないようにしたい。特に第三者に事情聴取を行う場合、被害者が申し立てているハラスメントの内容が、事情聴取によって必要以上に第三者に知られることがないよう注意が必要だ。誰から、事実関係のどの点について事情聴取を行うのか、被害者の承諾を経ておくべきだろう。

また事情聴取を受けた者が、聴取の事実や内容を外部に漏らすことになれば、調査の秘密が害されるだけでなく、被害者の二次被害にもつながりかねない。被害者、行為者、第三者のいずれにも、事情聴取が行われたこと及び事情聴取の内容について、第三者に口外しないことを、聴取前に約束させるべきである。

物的証拠について、特にメールやSNSなど、被害者や行為者などのやりとりの記録がありそうな事案では、確実に証拠を収集するよう努力すべきである。ただ、提出者が自身に不利な内容が含まれる部分を意図的に削除したり、やりとりそのものを消去してしまうこともあるだろう。事業主は、提出されるはずの物的証拠が全て提出されているか、隠ぺい・改ざんの可能性はないかを確認する必要がある。

最近は、フォレンジック(PCなど記録媒体の調査・解析を通じて証拠の収集や原因究明を行う技術)により、PCやスマートフォンにおいて消去されたデータはほぼ復元可能となっている。事案によってはフォレンジックを行うことも検討すべきであろう。

もっとも事業主は捜査機関ではないから、強制的に物的証拠を差し押さえることはできない。あくまで事業主から物的証拠を保有している者に提出を要請し、証拠保有者からの自発的な提出を期待するほかない。もし証拠保有者が、事業主からの度重なる要請にも関わらず提出しない場合は、証拠を提出できない(したくない)事情があることを、事実認定の際に十分考慮すべきである。

■言い分が食い違った時の合理的推測とは

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