リーダーの謙虚さが高い職場では自由に考えを表明できる「心理的安全性」が高く、メンタルヘルスや働きがいの向上に影響するとの研究結果を、東京大学先端科学技術研究センターの松尾朗子特任助教、熊谷晋一郎教授らの研究グループが明らかにした。民間企業を対象にした調査では、心身の不調による勤務中の生産性低下を指す「プレゼンティーズム」の低さとの関連性が、中央省庁での調査ではメンタルヘルスや働きがいの高さとの関連性がそれぞれ確認された。双方ともに心理的安全性が媒介的な役割を果たしている。松尾特任助教は「多様なメンバーがコミュニケーションを取りやすいリーダーシップが、組織のパフォーマンスに影響している」と話す。


■ 民間・公務職場ともに有意に関連
民間企業、中央省庁(法務省)の各職場で調査を実施した。2024年3月に国際学術誌に発表された民間企業への調査では、大中小規模を含むIT、サービス関連企業などに勤める計462人の従業員にアンケート調査。25年2月に発表された中央省庁への調査では、法務省本省の75の部署に勤務する計1088人の職員の回答を分析した。
両調査ともに、まず回答者自身が属するチーム内でのリーダーの謙虚さと、心理的安全性の度合いを調べた。測定には、組織やリーダーシップに関する国際的な研究で使用されている評価尺度を研究チームが日本語訳し、実用性を確認したものを用いた(図表1、2)。

その上で、民間企業への調査ではプレゼンティーズムを、法務省への調査ではメンタルヘルスと働きがい(エンゲージメント)を、同様に国際的な評価尺度で測定した。
調査回答を統計学的に解析すると、リーダーの謙虚さが高まると心理的安全性が有意に高まるとの結果が示され、さらに心理的安全性を介して、プレゼンティーズムの低減、およびメンタルヘルスと働きがいの向上に影響していることがそれぞれ明らかになった。
■ 謙虚さとは「学ぶことができる」こと
調査結果は実務の観点からどう読み解けるのか。松尾特任助教に尋ねた。
――「謙虚さ」とは何ですか。
特に日本では、相手に比べて“自分を落とす”ことを謙虚さと捉えることも多いのですが、必ずしもそうではありません。元々海外で提唱された謙虚なリーダーシップ(humble leadership)の重要なポイントは、相手に教えを請うこと、つまり学ぶことができるという点です。そのためには、リーダー自身にできることとできないこと、すなわち等身大の自己理解が求められます。できないことを認めるのは勇気のいることかもしれませんが、得意な人に任せることでチームで補い合うといったことも可能になります。
――「心理的安全性」のポイントは。
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