■既存社員の引きとめを意識
新卒採用を睨んだ初任給増額だけでは、既存社員の不満が高まる危険性がある。ヤマ場を待たず満額回答が相次いだ昨春と状況は異なるが、2025年春の労使交渉では優秀な既存社員の引きとめを意識して、大幅な賃上げに踏み切らざるを得なかった企業も少なくなかったはずだ。
松屋フーズホールディングス(東京都武蔵野市)は4月の改定で、正社員の給与を2年連続で10%以上引き上げる。賃上げ率は過去最大だった前年の10.9%に届かないものの、定期昇給分とベースアップ分、その他の改定を含めて最大10.12%となる。なおアルバイト・パートは昨年12月に、平均で3.0%の時給引上げを実施している。

海運業の栗林商船(東京都千代田区)も25年度の報酬改定で、陸上社員の総合職と管理職の賃金を平均10%引き上げる。組織内の役割に応じて設定する役付給の増額のほか、社員の業績に対する貢献を反映する期末業績連動報酬を導入したことで、昇給率は最大で26%となる見通しだ。

賃貸事業のレオパレス21(東京都中野区)は4月に、若手非管理職社員の基本給を最大9%、管理職の報酬を最大6%増額。また地域別の賃金相場を考慮して勤務地手当を支給するほか、転勤のない社員の基本給を転勤がある社員の水準まで3年をかけて引き上げる。

不動産開発のコスモスイニシア(東京都港区)はアルバイトを除く全従業員の給与を、4月支給分から評価による昇給を含み約8.6%増額。職群で異なるが、約5.6%は給与水準の改定分。物価上昇を鑑み、全体の改定率は23年の約7%、24年の約6%を上回る。

不動産買取再販事業のムゲンエステート(東京都千代田区)は正社員の給与水準を、4月に導入する買取再販営業手当を加味して約8.2%引き上げる。内訳は定期昇給分が平均3.2%で、残りの5.0%をベア分が占めている。

内藤証券(大阪府大阪市)は1月に開催した取締役会で、全従業員の給与水準の改定を早々に決議。25年3月期も好業績が見込まれること、物価が上昇していることを考慮して、4月から平均で6.2%引き上げる。

不動産ファンドを運営するケネディクス(東京都千代田区)は、25年度の全社昇給率を6.1%とする。物価上昇の対応と人材確保のため、査定に基づく昇降給に加え、3年連続で特別昇給を実施している。
大分銀行(大分県大分市)は25年度も、賃上げを行う予定。労働組合との合意が前提で、実施日は8月1日になるが、定昇を含めた昇給率は平均で5.8%程度となる見通しで、2年連続で5%台の引上げを実施する。

プリンスホテルズワールドワイド(東京都豊島区)は、賞与の一部を基本給に組み入れて支給比率を高める報酬構造に刷新。その上で、定昇とベア、資格手当新設で、25年度の賃上げ率は平均5.2%となる見込みだ。
取引電子クラウドを運営するリーテックス(東京都新宿区)は1月にすでに、給与水準を改定した。生活コストの上昇以上の給与アップが企業の責任であるととらえ、5%以上の賃上げを実現している。
住宅リフォームのGinza(東京都中央区)は3月から、全従業員を対象に給付水準の引上げを実施。過去2年間で3度のベアを実施しているが、4度目の今回も約5%の増額に踏み込んだ。
モスフードサービス(東京都品川区)は、4月分から全社員の給与を増額。ベア分は平均3%で、定昇と合わせた賃上げ率は平均5%となる。

串カツ田中ホールディングス(東京都品川区)は正社員の給与を、1月分から平均4.7%引き上げた。ベア・定昇・手当改定などで、昇給率が最大で23%になる正社員もいるようだ。