水曜日, 1月 8, 2025
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【ゆく年 くる年】スキマバイト社会の行く末(山本圭子)

■仕事情報をアプリで探すこと

山本圭子(やまもとけいこ) 法政大学法学部講師。著書に『ファーストステップ労働法』(エイデル研究所、2020年、共著)など。

あけましておめでとうございます。皆様にとって良き新年でありますように。今年もよろしくお願い申し上げます。

昨年は、最低賃金が史上最高の引き上げとなり、各地で50円以上アップとなった。他方、最低賃金の引き上げによって、パートやアルバイト等が、地方税の課税最低限100万円、所得税の103万円、社会保険の壁106万円・130万円、配偶者控除の所得制限に係る150万円の壁、配偶者特別控除に係る201万円の壁などを回避するべく、例年より早めに就業制限をはじめるという影響も発生した。年末の忙しいときに、小売や飲食店等が人手不足で店が回らないという事態に陥った。

この年収の壁は、昨年の総選挙でも争点のひとつとなり、課税最低限の引き上げによる手取額の増大を打ち出した党が議席を増やし、衆議院では少数に転落した与党サイドと「103万の壁」の引き上げで合意した。引き上げ幅は、「178万円をめざす」と明記して協議継続だという。課税最低限の引き上げは地方公共団体の長が財政基盤が損なわれると、こぞって反対しており予断を許さない。

■学生のスキマバイト事情

「壁」に阻まれて就業調整に入ったパートの穴埋めや、急な受注増、常勤者の病欠など、人手不足の救世主として経営者にも労働者にも頼りにされているのが、スキマバイトだ。スポットワーク、ギグワークとも呼ばれている。

スマートフォンのアプリ等を介して、有料民間職業紹介事業、とくに日々雇用労働者の日々紹介を行う業態もあれば、求人情報等提供事業者という業態もある。需給のマッチングをアプリ上で行うというところが特徴だ。各事業者が数百万人の登録者数を誇っており、あわせると2000万人ほどになるという。地方公共団体の中には、アプリ開発事業者と連携して、地域内のスポットワークのマッチングアプリを立ち上げるところも出てきている。

教え子の学生に聞けば、スマートフォンに複数のアプリを登録し、電車の中などで求人情報をみているという。本気で仕事を探すこともあれば、どんな仕事がどれくらいの時給で出ているのか等を見て、情報収集しているらしい。業務内容、勤務日や勤務時間帯、勤務場所等を指定して検索できるのが便利だという。

古い話ではあるが私の学生時代は、紙ベースの日刊の求人情報誌を100円で購入してアルバイト仕事を探していた。頻繁に求人誌を購入していると、「また、この求人が出ている」と気づく。よほど人手が必要なのか、あるいは人気がない仕事なのか。最初は時給だけが目について仕事を探すけれど、そのうち交通費が出るのかとか、シフトに融通が利くのかといったところも大事なことに気づく。

アルバイト情報誌でみつけた家庭教師の仕事が、労働契約ではなく家庭教師業者との業務委託契約で、契約書もない上に、顧客の事情でキャンセルになっても賃金はおろか休業手当も出ない、残業代も出なかった。情報誌に掲載されているからといって、必ずしも労働契約ではない。それは、インターネットやアプリを介する職探しでも同様だ。

そんな昔話を学生にしていると、「委託とか請負のほうがいいじゃないですか」という者がいて驚いた。その学生はコンサート会場の設営・撤収の「バイト」をしているという。

深夜に徹夜で作業を行い、翌日のリハーサルに間に合わせる、コンサート後に「ばらし」という撤収の作業にも入る。終夜作業で一勤務いくらの日給制報酬の請負ではあるが、作業が早く終われば早く上がれる、長引いても残業手当等は出ない、自分たちの頑張り次第で作業時間を短縮でき、報酬も労働契約のアルバイトの倍近くもらえるから、請負のバイトを選ぶという。集合場所に軍手を持って行き、集められた者が作業をする。

まさしく一夜限りの「ギグワーク」で、「いろんな人に会えるんですよ。すごく変な人もいるんですよ」などと楽しそうに話す。しかし、請負だとフリーランスとしての扱いになるので、仕事中の怪我にはくれぐれも気をつけるようにいう。

昨年11月からのフリーランスの労災特別加入制度は、この学生のように、たまに請負で働くような形態は想定しているのかしら。このような業務委託や請負のスポットワークの保護、労働者性の判別については課題が残っている。労基法等の抵触が疑われる場合には、労基署で判断するというが…。

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