名古屋市東区のひとり出版社「ゆいぽおと」の山本直子さん(67)は今年4月、創業20年目を迎えるのを前に、これまで出版してきた113冊を並べた記念展を長久手市の「カフェギャラリー陶片木」で開いた。(井澤宏明)
その中に創業の2005年8月に刊行した『きのこ雲の下から、明日へ』があった。著者は女優の斉藤とも子さんだ。
30歳代になって社会福祉を学ぼうと東洋大への入学を決めた斉藤さんは、同じ年に井上ひさしさんの戯曲『父と暮せば』で被爆した娘を演じることになり広島を訪れ被爆した女性たちに会った。
その後、放射線を母親の胎内で浴び、「原爆小頭症」として生まれた被爆者やその家族がつくる「きのこ会」と出会い、修士論文にまとめる。
「論文だけにしておくのはもったいない」と山本さんのところに出版化の話を持ち込んだのは、斉藤さんを指導していた大友信勝教授。日本福祉大勤務時、山本さんと一緒に中央出版で本をつくった「仲間」だ。
大友教授から「(60回目の広島原爆忌の)8月6日には本屋に並んでいないと」と急かされ「突貫工事」でつくった本の帯には井上さんが「被爆者の勇気と斉藤さんの熱意が結晶して、核を考えるときに欠かせない基本資料が成った」と推薦文を寄せた。後に日本ジャーナリスト会議市民メディア賞などを受賞した。
■「好きだから」を本に
山本さん自身が著者に企画を持ち込んで出版にこぎつけた本も数知れない。『海中散歩でひろったリボン ボニン島と益田一』(中山千夏著、08年)は自身もスキューバダイビングが趣味の山本さんが、「同好の士」である中山さんに「潜る話で書いてもらえるといいな」と執筆を依頼した。
『こころの寺めぐり』(神山里美著、08年)は、12年間で400以上のお寺を訪ねたという地元ラジオのパーソナリティー神山さんがホームページに「お寺の本を出すのが夢」と書いているのを目にしたのがきっかけ。「旅が好きだから、行かなくても行った気になれるような本を出したい」と持ちかけた。
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