■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
去る2025年12月4日、欧州委員会はEU運営条約第154条に基づく労使団体への第一次協議を開始しました。テーマは「労働条件、労働安全衛生及び労働者の権利の行使を改善するEU行動-クオリティ・ジョブ法」です。
このクオリティ・ジョブ法というフレーズは、フォン・デア・ライエン欧州委員長の2025年施政方針演説で初めて使われ、欧州委員会の2026年作業計画において、2026年に立法提案すると予告されたものです。ということは、この第一次協議に引き続き、2026年の中盤には第二次協議が行われ、年末までには何らかの形の立法案が提出されるという日程表になります。
この第一次協議文書に対して、欧州労連(ETUC)は2026年1月28日に、40ページに及ぶ膨大な回答を公表しています。また欧州経団連(ビジネス・ヨーロッパ)も同年1月27日に19ページに及ぶ回答を公表しています。以下ではこれら労使団体の回答の内容も含めて見ていきます。
さて、協議文書(C(2025)9944)には、大きく4つないし5つの分野が取り上げられており、クオリティ・ジョブという言葉の包括性とも相まって、極めて総花的な印象を与えるものになっています。以下、協議文書に沿って、その提起する論点を見ておきましょう。
まず、第1に挙げられているのが職場のアルゴリズム管理と人工知能(AI)です。AIについては2024年7月に制定されたEUのAI規則が包括的な規制を行っており、これについては日本でも紹介されていますが、ここで論点となっているのは職場におけるAIの利用についてであり、とりわけアルゴリズム管理の問題です。
この問題については、本紙2025年8月25日号に寄稿した「欧州議会の『職場のアルゴリズム管理指令案』勧告案」で述べたように、欧州議会が人間による監視と再検討に重点をおいた指令案の提案を要求しています。
既にプラットフォーム労働指令では、雇用型非雇用型を問わずプラットフォーム労働に限定された形でアルゴリズム管理の規制が立法されていますが、これを他の全ての雇用非雇用の労働形態に及ぼそうというものです。
欧州労連の回答は、AI規則とGDPRの規制とプラットフォーム指令の規制とにはギャップがあり、このギャップを埋めるべきというものです。
職場で使われるAIシステムは「ハイリスク」に分類されるにもかかわらず、AI規則は作業編成、権力の不均衡、集団的権利、労働安全衛生といった中核的労働法問題に対処することができず、またAI規則やGDPRは一般的な製造物安全やデータ保護といった問題のための仕組みで、職場におけるアルゴリズム管理の利用への特定の労働基準の設定には及ばないので、拘束力あるEU立法が必要だというのです。
これに対して欧州経団連の回答は、AI規則とGDPRで十分であり、それ以上の不必要な立法介入はEUにおけるAIの活用を遅らせ、その競争力を損うことになるだけだと警告しています。プラットフォーム労働指令におけるアルゴリズム管理規制の規定の方が過剰であり、今後のEU立法のベンチマークにすべきではないという立場です。
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