■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
EUの最低賃金指令については、本誌上で何回も取り上げてきました。2020年3月25日号で「EU最低賃金がやってくる?」を、同年11月25日で「EU最低賃金指令案」を、そして昨年の2025年2月25日号では「EU最低賃金指令は条約違反で無効⁉」を寄稿しています。
本指令は2022年10月19日に正式に採択され、その国内法転換期日は2024年11月15日でした。ところが2025年1月14日、EU司法裁判所のエミリオウ法務官は、同指令は条約違反であるから全面的に無効とすべきであるという意見を公表し、大きな騒ぎになっていたのです。昨年の拙稿は、提訴に至る北欧諸国の労使関係と、この法務官意見の主要部分を解説するものでした。
ヨーロッパの労使関係者が息を詰めて見守る中、昨年末の2025年11月11日、欧州司法裁判所は遂に判決を下しました。その内容は、ごく一部を除き、条約違反ゆえ無効との訴えを退けるものでした。つまり、EU最低賃金指令はおおむねEU条約違反ではないと、司法がお墨付きを出したことになります。以下、判決を見ていきましょう。
まず、条約第153条第5項の「賃金」の適用除外に違反するという点については、従前の判例を踏まえて、加盟国における賃金水準の均等化や最低保証賃金を設定することに限られ、賃金に関わる問題全てに及ぶものではないとします。そして賃金は労働条件の不可分の一部なのだから、同条第1項の「労働条件」に基づくEUの権限は、同条5項で適用除外される「賃金」と部分的にオーバーラップするのであり、直ちに条約違反とは言えないとします。
具体的には、まず指令第4条(賃金に係る団体交渉の促進)については、同条は加盟国の賃金設定モデルの選択に介入しておらず、各国の伝統を尊重しているとします。また同条は団体交渉の内容や結果を支配しようとしておらず、手段を義務づけているだけだとします。また団体交渉や労働協約に係る労使団体の広範な裁量を認めている点も指摘し、これが条約第152条と整合的であるとします。
また指令第5条(十分な法定最低賃金の決定手続)については、同条は加盟国に法定最低賃金の導入を義務づけているわけではなく、原告のデンマークやスウェーデンのように法定最低賃金を持たず労働協約で設定している国に法定最低賃金を強制していないと指摘します。また、法定最低賃金のある国にも「十分」さについては国内の社会経済状況によって裁量の余地を与えており、この規定が直ちに労働者に十分な法定最低賃金の権利を与えるわけではないと指摘します。
これに対し、同条第2項は法定最低賃金の決定で考慮すべきとする4要素として、生計費を考慮に入れた購買力、賃金の一般水準と分布、賃金の上昇率、長期的な生産性水準の進展を挙げていますが、これは最低賃金の構成要素の調和化を図ろうとするものであり、賃金決定におけるEU法の直接の介入に該当すると判断しています。同条第1項第5文も、「第2項にいう要素を含め」と同項を引用しているので、やはり問題があるとします。
同条第3項は自動的な物価スライド制の規定で、その採用自体は任意ですが、「その適用が法定最低賃金の減額につながらない限り」という条件を付している点が直接介入にあたると判断しています。
同条第4項は賃金中央値の60%、賃金平均値の50%といった基準値を示した規定ですが、加盟国は別に拘束されるわけではなく自由に決定できるので、直接介入にはあたらないとします。同条第5項は定期的見直し規定で、同条第6項は諮問機関の規定ですが、いずれも手続規定で直接介入にあたらないとします。
こうして指令第5条には上記3か所について条約第153条第5項の「賃金」の適用除外の違反が認められるとしつつも、それ以外についての違反はないと判断しています。
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