■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政
去る7月25日、欧州委員会はテレワークとつながらない権利に関する労使団体への第2次協議を開始しました。この問題に関しては、本紙でも2020年10月25日号で「欧州議会の『つながらない権利指令案』勧告案」を、2024年6月25日号で「テレワークとつながらない権利に関する第1次協議」を紹介していますが、今回の第2次協議は「検討中の提案の内容」(EU運営条約第154条第3項)を示すものなので、注意深く見ていく必要があります。
フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は、2024年7月の政治指針において、労働の世界におけるデジタル化の影響に関し、AI管理からテレワーク、「いつでもオン」の文化が人びとのメンタルヘルスに与える影響に言及するとともに、つながらない権利を導入する意欲を示しました。
その少し前に行われたこの問題に関する第1次協議に対して、労働組合側は概ねEUレベルでの対処の必要性に同意したのに対し、使用者側は疑念を呈しています。ただし、国境を超えるテレワークに関しては、国ごとに異なる労働時間規制が導入の障壁になっているという指摘もあり、そういう観点からの介入には反対ではなさそうです。
協議文書が課題として挙げている事項を見ると、まず労働者にとっては、デジタル化のメンタルヘルスと身体の健康に与える影響があります。「いつでもオン」の文化の結果、労働負荷、非社会的時間、情報過剰、孤独感等々の問題が生じています。
また自宅での休息時間中にもいつでも対応する必要があるため、労働条件やワークライフバランスの悪化をもたらしています。テレワークが個別に導入されてきたため、企業により、また企業内でも労働者により異なる取扱いが見られ、透明性に欠けています。さらにデジタルモニタリングが労働者のプライバシーや個人情報を侵害するリスクもあります。
使用者にとっては、国境を超えたテレワークにおいて労働時間や安全衛生規則が異なるため、テレワークの活用が過小となり、オフィス費用の節約や競争力が減少する可能性があり、また企業によって異なるテレワークやつながらない権利の仕組みのため、企業間競争に歪みを与える可能性があります。さらに、生産性や労働者のウェルビーイング、組織パフォーマンスに悪影響を与えます。
そこで、EUレベルの行動が、労働者のメンタルヘルスと身体の健康、ワークライフバランスを改善し、アブセンティーイズムや燃え尽き症候群を減らし、労働市場参加を増やして格差を是正するとともに、競争力や生産性を高めるというわけです。そのために、①「いつでもオン」の労働文化の否定的な影響を縮小し、②透明性と労働条件の向上が求められます。
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