発注者の立場から襟を正して取引の協議に向き合うことが、業界としての競争力確保・向上につながる――中小・中堅の自動車部品メーカー428社でつくる日本自動車部品工業会(部工会)の渡辺修自サプライチェーン部会長は、8月に会員企業向けに行われた適正取引推進説明会で強調した。2026年1月の改正下請代金支払遅延等防止法の施行を前に、政府は賃上げ促進を背景に取引適正化の取り締まり姿勢を強めている。焦点の一つは労務費の価格転嫁で、根拠について指針では最低賃金や春闘妥結額の上昇率など「公表資料」に基づくとしている。対応のポイントを探る。
■ 発注側からの詳細な内部資料要求は「協議拒否」にも
施行まで4カ月を切った改正下請法(中小受託取引適正化法)では、対等な価格交渉の確保のため、中小受託事業者からの協議の求めに応じなかったり、説明を行わないことなどによる一方的な代金の決定を禁止する規定を新設。見直しが進む運用基準案では、価格の引上げや引下げだけでなく「据置き」も、一方的な価格決定に含まれることを明確化している。
価格協議の際の焦点は、改定の根拠となる原材料価格やエネルギーコスト、労務費の変動をどう計算し、取引価格に反映するかだ。資材や石油価格の高騰は市場の変動を客観的に説明しやすいが、特に労務費については個別企業内部の労働条件などにも関係し、取引協議の場でオープンに議論することが比較的難しい事情もある。
この点について、公正取引委員会と内閣府が23年末に公表した「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」では、コスト要素別の積算見積書のひな型を明示(図1)。労務費については「最低賃金や春季労使交渉妥結額等の上昇率を乗じて算出」としている。

ポイントは、最賃や春闘妥結額といった一定の公表資料を提示することで、受注側の説明責任は果たされたとみなす考え方だ。
その理由について指針は、発注者から詳細な根拠資料の提出を求められたために労務費の転嫁を断念したとの受注者側への実態調査結果をあげた上で、「公表資料に基づくものが提出されているにもかかわらず、これに加えて詳細なものや受注者のコスト構造に関わる内部情報まで求めることは、そのような情報を用意することが困難な受注者や取引先に開示したくないと考えている受注者に対しては、実質的に受注者からの価格転嫁に係る協議の要請を拒んでいるものと評価され得る」(指針9頁)と明記。上記の公表資料は「関係者がその決定プロセスに関与し、経済の実態が反映されていると考えられる」ことから、合理性があるとしている。
またコスト全体に占める労務費率について、指針では平均値(32.4%)を超える業種の一覧を示している(図2)。

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