■M&Aから学ぶ労務管理―これからの100年企業を目指して③

TRY―Partners㈱代表取締役。社会保険労務士。東京都社会保険労務士会・千代田支部・開業部会委員。経営者のパートナーという役割を使命とする社労士事務所も運営。迅速で丁寧なデューデリジェンス(労務DD)には定評がある。M&Aシニアエキスパート。
M&Aの世界では、表面的には魅力的に見える案件でも、統合後に思わぬ落とし穴が待ち受けていることがあります。今回は、その典型例である「M&A後の大量離職問題」を取り上げます。
とある案件で、財務面ではシナジー効果が十分に見込まれ、営業上も好材料が揃っていました。しかし、統合後に社員の不安や不満が一気に高まり、キーパーソンだけでなく現場の中核人材までもが次々と退職してしまったのです。その結果、わずか1年で売上が統合前の半分以下に落ち込む事態となりました。このような失敗事例は、決して珍しいものではありません。
さらに余談ですが、このような事態は自然発生的に起こる場合だけでなく、残念ながら最初から意図的に仕組まれるケースも存在します。具体的には、元会社(売り手)のキーマンが結託し、近隣で同業を立ち上げ、買収された会社を空箱同然にしてしまうのです。筆者が実際に関与した事例でも、デューデリジェンス(DD)の過程でこのような競業避止義務違反のリスクが高いことを指摘し、最終的に買収を見送ったケースがありました。
もちろん、DDの実施を前提とし、契約条件や表明保証によって一定程度の規制は可能です。しかし、それだけで完全に防ぎきれるわけではありません。私たち実務家や経営者は、表面上の数字だけに目を奪われることなく、統合後の人材の動きにまで十分配慮する必要があるのです。
■失敗事例の検証
前述の事例は、どこに問題があったのでしょうか。主たる要因は、統合後を見据えた「カルチャーギャップ対策」と「キーマン確保」の不足にあります(下表参照)。

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