■秘密保持契約違反は有効 国籍差別は「通報対象事実」だが
レイシャル(人種的)ハラスメントの調査の結果を不満に思い、経営陣にメール送信を繰り返す等業務命令違反で解雇された原告が、解雇無効と調査にかかる不法行為による損害賠償を請求。判決は国籍差別の疑いが公益通報者保護法の通報対象事実に該当するかも検討した上で、処分を有効と判断。解雇も有効としました。
■事件の概要
原告は韓国籍の男性で、平成19年モルガン・スタンレー・グループと労働契約を締結。報酬は平均1億円程度であり、最上位のマネージング・ディレクター(MD)を目指しますが、昇進は否決されていました。
令和2年3月、原告は会社の人事部に人種的ハラスメントを受けていることを伝え、4月30日まで原告の聴取を含めた調査が実施されました。
「天皇は韓国に謝罪すべきである」と平成24年当時の韓国の李明博大統領が発言したことに関し、上司が席の近くに来て「天皇を侮辱すべきではない」といった5回の発言を原告は申告。さらに昇進に関し国籍差別を受けたと述べました。聴取に先立ち原告は、秘密保持契約書に同意。秘密を漏洩した場合には重大な違反として、取り扱われる旨が記載されていました。
会社は上司の行為はハラスメントに該当しない、昇進しないことは国籍の影響ではないという調査結果を伝達。納得できない原告は、「自分のように苦しむ従業員が二度と生じないため」と外部のメディアにメールを送りたい旨伝えますが、人事部長がこの件は終了し、原告が守秘義務を負っていることを伝えました。
原告は5月8日から私傷病休職に入り、6月からアメリカ本社のCEОをはじめとする複数の役職者に人種的ハラスメントとその調査結果を内容とするメールを送信。これらに対して会社は15項目にわたり処分を実施。21年2月に、原告を解雇しました。

■判決の要旨
判決はまず秘密保持契約に基づく守秘義務は、情報がゆがめられることを防止する目的として有効であり、守秘義務違反による処分も有効と判断しました。
また、原告が申告した国籍差別は公益通報者保護法の「通報対象事実」に該当すると指摘。就業環境は労働基準法3条の労働条件には含まれないものの、人種的ハラスメントにより就業環境を害されたことは、公益通報者保護法2条3項の「通報対象事実」に準じる事実として検討するとしました。
そのうえで「通報対象事実等」に該当するか否かは、処分対象行為の就業規則の懲戒事由に該当するか、該当する場合であっても3号通報(事業者外部に対しての通報)に該当する場合は、不利益取扱いが禁止されるから懲戒事由から除外するとしました。
さらに懲戒事由に該当し、かつ3号通報に該当しない行為であっても、国籍・人種を理由とする労働条件の差別的取扱いを禁止する労基法3条及び公益通報者保護法の趣旨に鑑み、①当該行為により伝達した通報対象事実が真実であるか、真実に足りる相当な理由があり、②目的が不正の目的ではなく、③手法が相当であれば、違法性が阻却され、当該行為を理由とする懲戒処分は無効となる旨述べて懲戒事由を精査しました。
上司の発言は8年間に5回という頻度で韓国政府などに対する批判に過ぎず、口調も平静でパワハラには該当しないこと、昇進で国籍差別があったとは認められないと判断。原告が主張した通報対象事実の真実性を否定しています。
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