■給与計算DXの先に何を見るか①

▶1982年生まれ、広島大学大学院修了。医療系ITベンチャーでの営業を経て大手社会保険労務士事務所で給与計算やM&A、IT推進事業などに従事。2019年にTECO Designを設立し、1000社超の中小企業でのHRテック導入・運用実績を持つ。
給与計算業務について「外注するべきか」「内製で持つべきか」という問いは、多くの企業で一度は議論されるテーマです。
一般的に、外注のメリットは専門性の確保と属人化リスクの回避、コストの平準化などが挙げられます。一方、内製では柔軟な対応力や人事施策との連動性、スピード感などが強みとなります。
しかし、この議論は多くの場合、「一部分だけを切り取った比較」にとどまっており、本質的な判断基準が欠けています。給与計算という業務は、単体の処理や機能として完結するものではなく、情報収集から結果の出力、支給、フィードバックまでが一本の連続した“線”として存在します。
つまり、給与計算業務は「分断不可能なオペレーションの連鎖」であり、どの工程をどこで誰が担うかによって、全体の効率と品質が大きく変わります。
■業務を“線”で捉える
たとえば、勤怠情報の取りまとめや手当の確定、雇用条件の反映など、前工程の正確性がなければ、いくら高品質な給与計算システムや外注先を用意しても、正しい結果にはなりません。逆に、計算結果のチェックや従業員へのフィードバックといった後工程が分断されていると、ミスの発見が遅れたり、現場での納得感が得られにくくなったりします。
さらに言えば、外注先がカバーできる範囲にも限界があります。例えば人事制度の変更や新たな働き方への対応が発生した際、給与計算のルールも連動して変わります。こうした変更にどれだけ迅速かつ正確に対応できるかは、業務の“線”のどの部分を自社で理解・管理しているかによって大きく異なります。外注しているから安心、という考え方は、連続性の視点から見ると非常に危ういと言えます。
結局のところ、「外注か内製か」の議論は、“給与計算業務をどのように線として捉えるか”という視点がなければ、表面的なコスト比較や一部工程の効率性に終始してしまいます。理想的には、給与計算という業務フロー全体を地図として捉え、自社の体制や目的に応じて「どこを誰に任せるのか」「どこは内側に残すべきか」を設計することが重要です。
つまり、「給与計算を線で捉える」という視点がなければ、外注しても内製しても、結局はうまくいかないということです。
