金曜日, 12月 5, 2025

春のスタートに向けて(深沢孝之)

新・働く人の心と体の心理学 最終回 著者:深沢孝之

日本には「年度」という概念があり、ほとんどの場合4月が年度の開始になります。知人のアメリカ人は「日本もアメリカみたいに学校は9月始まりにすればいいのに」と言っていました。留学とかの国際交流には便がよいから、と言うのです。

私は「いやいや、日本人には、桜の咲き散る4月にスタートすることが一番心にフィットするのだよ」と反論しました。現在みたいな4月始まりになったのは明治以降と思いますが、既に日本人の魂にそれは刻みつけられている感覚があります。実際に四季の明確な日本では、長い冬を経て、植物が芽吹き花を咲かせ始める春に物事をスタートさせることは、心身のリズムの理に適っているように思えます。

多くの場合、新しいスタートを切るということは、新しい所属の場、コミュニティに入ることを意味しています。入学、進級、就職、異動、転職、退職、それらに伴う引っ越しなど、その機会は多種多様です。人間は成長し、死ぬまで動き続け、自分の所属の場を変え続ける生物なのです。

アドラー心理学の創始者であるアルフレッド・アドラーは、「人間は一人では生きていけない弱い動物なので、自衛のために群れて集団を作る」と述べました。「人間は、他の動物に比べて、あまりに危険な状態にいるといえる。他の動物と戦って生き抜くために必要な速い足をもっていなければ、強い筋力もない。猛獣のような牙、鋭い聴覚、遠くまで見る視力も持っていない。人間が生き残り、滅亡を防ぐためにはとてつもない努力が必要となる」と言いました。現在の人類の繁栄は、か弱い存在であるからこその「とてつもない努力」があったからです。

同じような見解は、進化論のダーウィン始め、たくさんの学者が言っています。生理学者のポルトマンは、人間は「生理的早産」で生まれてくると言いました。爬虫類も魚類も哺乳類も、ほとんどは生まれ落ちたらすぐに動くことができます。人間は直立二足歩行をするようになったために、母親の骨盤や子宮口が狭くなり、早産で生まれざるを得なくなりました。そのために誕生時には自力での移動はできず、飢えや寒さに無力なので養育者なしでは生きていくことが不可能になりました。動物として未完全、早産で生まれてくるのです。

しかしそれはかえって、良い方向に人間を進化させました。未熟な状態で生まれることによって、大きく変化していく可能性を持ったからです。生まれてからの学習や環境の影響がより大きくなったのです。その結果、文明や文化を築き上げることができました。

春のスタートから人類のスタートに飛躍してしまいましたが、長い進化の時間の中で、人間は新しい環境を自然に求めるようになったと思います。しかし、一方で人は新たな悩みを抱えるようになりました。

■所属感を得ることが人の根源的欲望

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