■規範意識に欠け成立しない 協議された形跡がなく会社が決定
新聞社で60年以上支給されていた「錬成費」が支給停止となったことで労働者が訴訟を提起。労使慣行として成立しているかが問われました。判決は長期間反復継続していることは認めながら、手続や労使の認識などの事実を精査した上で、労使慣行として成立するには規範意識に欠ける旨述べて、請求を棄却しました。
■判決のポイント
原告は中日新聞に記者として入社し、東京新聞労組に加入し同労組執行委員長の地位にある者です。同社には全正規従業員の1.0%が加入する東京新聞労組、85.2%が加入する中日新聞労組があり原告は少数労組の委員長です。
会社は昭和30年代に年間合計3000円の錬成費の支給を開始。その後支給方法や対象者の変更等を経て、3月の給与支給時に振り込まれるようになりました。
会社は令和2年に東京新聞労組と中日新聞労組に対し、錬成費を不支給とすることを告知。同年3月には支給を停止し、原告が支払いを求めました。
争点は錬成費の支給が労使慣行として、また黙示の合意として労働契約の内容になっているかです。
労使慣行の成立要件として一審は過去の裁判例にならい、①同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、②労使双方が明示的に排除・排斥していないこと、③慣行が労使双方の規範意識によって支えられていること、の3つの要件を掲げました。
1審2審とも①②については認められるが、③の規範意識の存否について否定しています。会社が給与の支払いとして支給開始したものではないこと、複数の変更が協議ではなく使用者の一方的な変更で行われていたこと、労働者が錬成費を給与と受け止めてはいないこと、会社が給与の支払いとは異なる取扱いをしていたことを事実認定。「労使双方の規範意識によって支えられていたとは認められない」と労使慣行の成立を否定しました。
2審の補充説示では給与方法の変遷や対象者が絞り込まれる経過で、錬成費の支給の趣旨はもとより支給方法、支給対象者が協議された形跡がないことを重視しています。

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