火曜日, 12月 10, 2024

労働側団体による解雇の金銭救済制度案(濱口桂一郎)

■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

去る9月27日に自由民主党の総裁選挙で石破茂氏が総裁に選出され、10月1日の臨時国会で内閣総理大臣に指名され、直ちに石破茂内閣が発足し、その後衆議院の解散総選挙が行われました。今回の自民党総裁選ではさまざまな論点が議論の俎上に上せられましたが、その中でも政治家やマスメディアの関心を惹いたものの一つに、解雇規制をめぐる問題がありました。

とりわけ当初は最有力候補と目されていた小泉進次郎氏が、結果的に石破、高市両氏の後塵を拝して3位に終わった原因の一つとして、彼が立候補時に「労働市場改革の本丸である解雇規制の見直し」を掲げたことが指摘されています。また、結果的に9人中8位と惨敗した河野太郎氏も、解雇規制の緩和や解雇の金銭解決を主張していました。

このうち河野氏が主張していた解雇の金銭解決制度は、過去20年以上にわたって官邸や内閣府の諸会議体と厚生労働省の検討会、審議会で議論が続けられている案件です。すなわちまず、2000年の総合規制改革会議の答申を受けて、2003年の労働基準法改正時に解雇権濫用法理が同法第18条の2に書き込まれた際に、労政審答申には金銭補償の仕組みも盛り込まれたのですが、法案の国会提出の間際に撤回されました。

次に2005年の労働契約法制の在り方研究会報告に基いて、2006年に労政審労働条件分科会で議論されたときも、最終的には先送りとなりました。その後、第2次安倍政権下で2013年から規制改革会議や産業競争力会議が議論を再燃させ、『日本再興戦略』の閣議決定を受けて、2015年から厚労省の透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方検討会で議論がされ、さらに解雇金銭救済制度の法技術的論点検討会で細かな議論が詰められ、2022年からは労政審労働条件分科会で何回か審議が行われています。

この間、筆者も政府の求めに応じ、労働局あっせん、労働審判、裁判上の和解における金銭解決の実態調査を繰り返してきたので、人ごとではない感覚を持っています。

ところで、この解雇の金銭救済制度については、労働組合サイドは絶対反対のスタンスであるというのが、多くの人々の常識でしょう。確かに、連合は繰り返し「不当解雇を正当化しかねない制度は断じて認められない」、「労働者保護のため制度導入阻止に向けて取り組む」と述べています。

しかしながら、金銭解決制度が不調に終わった上記2000年代半ば頃までは、連合自体ではないにしても、連合と密接な関係を有する関係団体が、解雇に関する立法提言を行っており、その中では労働者側の請求による金銭救済制度の導入も求めていたのです。現時点ではほとんど忘れられた昔の文書ですが、労働側から見ても解雇の金銭救済制度というのは検討する値打ちのある制度であるということを問わず語りに示している文書ではないかと思われますので、20年ぶりの古証文を掘り返して見たいと思います。

まず、労働側弁護士の集まりである日本労働弁護団が、その機関誌『季刊・労働者の権利』2002年夏号(245号)に掲載した「解雇等労働契約終了に関する立法提言及び解説」を見てみましょう。同提言は、まず解雇には正当事由が必要であるという規定を打ち出します。

第2(解雇の正当理由)

使用者は、労働契約を維持しがたい正当な理由が存在しなければ、労働者を解雇することができない。

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