フリーランスへの業務委託でトラブルにならないために、人事労務担当者は何に気をつければよいのか。新法が施行され1年が経つ11月に開かれた「フリーランス・シンポジウム2025」では、登壇した公正取引委員会の小林慎弥フリーランス取引適正化室長が「中小企業を含め、まず取引条件の明示が重要」と強調した。シンポを主催した青山学院大学の岡田直己教授(経済法)は、労働者性が疑われる現場の実態も少なくない点を踏まえ、「フリーランスの働き方については経済法と労働法の双方を踏まえた対応が求められる」と指摘する。
■4件の勧告事例共通の特徴は
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法は、フリーランス(特定受託事業者)に業務委託する発注事業者に対し、義務や禁止事項を定める。同法ではフリーランスを「業務委託の相手方で従業員を使用しないもの」と定義し、個人か法人か、また業種や年齢を問わず幅広く対象としている。
法律は取引条件の明示や期日までの報酬支払い義務などを定めた「取引適正化」の部分と、育児介護への配慮やハラスメント対策といった「就業環境整備」の部分の大きく2つからなる。執行機関は、取引適正化は公取委と中小企業庁、就業環境整備は厚生労働省(労働局)と、経済分野と労働分野の規制を組み合わせた法律となっていることが特徴の一つだ(図)。

法施行後の1年で、公取委は4件の勧告と441件の指導を実施。大手出版社や音楽教室などへの勧告に共通する特徴として小林室長はこう話す。
「4件の勧告ともに、取引条件の明示と期日までの報酬支払いの2つの義務違反を認定しています。慣習による口頭での発注や、そもそも支払い期日を定めていない状況などがみてとれます」
当事者からの相談に弁護士が答える「フリーランス・トラブル110番」に寄せられた25年4~9月までの約1万件の集計結果でも、相談内容は「報酬の支払い」(29.2%)と「契約条件の明示」(18.4%)の2つが突出する。また、相談者の業種は最多が「運送関係」(14.0%)で、以降「システム開発」(9.3%)、「建設関係」(9.0%)など幅広い業種が含まれている(図)。


取引適正化をめぐっては、来年1月に改正下請法の施行が予定されている。取引適正化の規制内容は概ね共通するが、フリーランス法では発注事業者に資本金規模要件がない点が大きな違いだ。
シンポに登壇した弘前大学の長谷河亜希子教授(経済法)は、「フリーランスと事業者間の取引では価格転嫁政策が十分機能しておらず、下流へのしわ寄せで利益なき繁忙状態に陥っている状況がある。産業から担い手が退出してしまうことを防ぐためにも、買いたたき規制や価格転嫁政策を機能させることが必要」と述べた。
また、近年のハラスメントに関する裁判例について、音楽実演家に関するビーフォレスト事件(東京地判令和2・3・25)や美容ライターに関するアムール他事件(東京地判令和4・5・25)などを踏まえ、「実際の加害者に加えて、その使用者の責任も認定されることが少なくない」と指摘した。フリーランス法では就業環境整備の一つとして、ハラスメントの相談体制や事後対応といった防止措置義務を事業者に義務付けており、今後職場対応の重要性が高まりそうだ。
■ ユニバーサル・アプローチと労働者性判断
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