
1996年弁護士登録。現在、アンダーソン・毛利・友常法律事務所外国法共同事業パートナー弁護士。経営法曹会議常任幹事。人事・労務問題全般の助言のほか、セクハラ、パワハラなどハラスメント問題に関する社員研修、管理職研修なども数多く行う。
■ハラスメント対応の術を身につける 第8回
今回取り上げるハラスメントの裁判例は、一橋大学アウティング事件(東京高判令和2年11月25日)である。この事件は職場で行われたものではないが、性的マイノリティに関するアウティング(暴露すること)の違法性について裁判所が言及した最初の判決であると言われており、取り上げることとした。
■LINEで暴露 「人格権著しく侵害」
2015年4月、一橋大学法科大学院(「大学」)の男子学生Aが、同級の男子学生Bに対し恋愛感情を告白したところ、Bは「付き合うことはできないけど、これからもよき友達でいて欲しい」などと応答したが、Bは同年6月、A及びBを含めた同級生9名が登録したLINEグループに、「おれもうおまえがゲイであることを隠しておくのムリだ。ごめんA」というメッセージを投稿した(「本件アウティング」)。
このことを契機に、Aは心身に変調をきたすようになり、同年8月にAが大学の校舎から転落死したため、16年3月にAの両親がBと大学に対し損害賠償請求訴訟を提訴したというものである(Aの両親とBは第一審係属中の18年1月に和解)。
一審(東京地判平成31年2月27日)も控訴審(前掲)も共に、大学はAの転落死を予見できず、大学側の対応はAに対する安全配慮義務違反とは言えないなどとして、Aの両親の大学に対する請求を棄却した。
しかし、一審がアウティング行為について何ら判断しなかったのに対し控訴審は、「本件アウティングは、Aがそれまで秘してきた同性愛者であることをその意に反して同級生に暴露するものであるから、Aの人格権ないしプライバシー権等を著しく侵害するものであって、許されない行為であることは明らかである」と述べ、アウティングが違法であることを明示した。
なお、18年4月、大学の所在地である国立市は、全国で初めて「アウティング禁止」を盛り込んだ条例を施行した。

■「部下のため」は通用せず、例え家族でも
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