金曜日, 12月 5, 2025
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賞与に関する労使慣行の有効性 学校法人桐蔭学園事件(令和6・12・26横浜地裁判決)

■労使慣行も変更可能 高度の必要性に基づく合理的なもの

桐蔭学園の教職員労働組合が原告となり、賞与と入試手当の労使慣行が法的効力を有し、その減額と廃止は理由がないとして減額相当額の支払いを請求。判決は労使慣行としての法的効力を認めつつ、不利益変更は許されるとして労働契約法10条に準じ変更には合理性があるとして請求を却下しています。

■事件の概要

学園は平成6年から令和2年までの約25年間にわたり全選任教員に対し、休職等がない限り勤務成績に関係なく一律に賞与算出方法に基づき賞与を支給。平成7年から令和2年までは入試手当として11万6000円を支給してきました。平成16年には収入減少を理由に賞与乗率の引き下げを提示しましたが、労使交渉で撤回した経緯があります。

令和元年、文部科学省が学園に学校法人運営調査を行った結果、経営基盤の安定確保が必要となる集中経営指導法人に指定。理事長が財務状況が厳しく、人件費の見直しを避けられないことを説明しました。

令和2年には「財政再建のための取り組みについて」と題する書面に、資金収支計算書シミュレーション等を添付した書面を全教職員に対し送信し、この書面に基づき、高校以下の選任教職員の賞与の支給乗率を5.45から5.0カ月分に引き下げ、非常勤講師等の賞与を8.26%削減するとともに、入試手当を廃止する措置を実施しました。

桐蔭学園の教職員が組織する労働組合等は賞与と入試手当が労使慣行として法的効力を有しており、法人による賞与や手当の減額は理由がないとして、減額相当額の支払いを求めました。

■判決の要旨

判決はまず、民法92条により事実たる慣習として法的効力が認められるかを①長期間反復継続して行われているか、②労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないか、③裁量権のある者が規範意識を有するか、から検討しました。

その上で、労働者側のみならず、使用者側も平成6年以降、算出方法に基づく賞与が支給されてきたこと、法人の業績や財務状況で支給額の有無や支給額が変動することは予定されていないことから、同方法に基づき賞与を支給するとの規範意識を有するに至っていると指摘。「労使慣行として法的効力が認められる」としました。

そして、労使慣行としての法的効力が認められた結果、労働契約の内容の一部を構成することになることから、その変更の可否を判断しました。

判決はその前提として、労使慣行の変更を常に労使間の合意がない限り行うことができないとするとことは不合理であって、「就業規則自体を変更しない場合であっても、労働契約法10条に準じ、労使慣行の変更を内容とする使用者側の措置による変更後の労働条件を労働者に周知させ、かつ、労働条件の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の労働条件の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の事情に照らして合理的なものであるときは、使用者側による労使慣行の不利益変更は許される」として、合理性を検討しました。

背景にある財務状況は平成20年以降、資金収支のマイナス状態が続いており、運営資金が枯渇する状況にあることから、人件費の削減を実施する高度の必要性があったとしました。


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