相談の対応が分からない、不安だが上司も分かっておらず支援をしてもらえない、責任だけ重く手当もつかない――職場のハラスメント防止措置義務として相談窓口設置が事業主に義務付けられる一方で、膨らむ担当者の悩みに組織としてどう向き合えばよいのか。「現場で機能する窓口をつくるためには、担当者を孤立させない仕組みが大切」と話すのは、A&SフィナンシャルアドバイザリーCHROで、特定社会保険労務士・公認心理師・精神保健福祉士の山本喜一さんだ。6月に都内で行われた展示会「総務・人事・経理Week」での講演内容を中心にまとめた。

■ 目的は「正確に報告すること」
2020年に施行された労働施策総合推進法(パワハラ防止法)をはじめ、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法などによりハラスメントの相談対応を含めた防止措置が全規模の事業主に義務付けられている。直近の法改正では、顧客や取引先からのカスタマー・ハラスメントの防止措置が公布1年半以内に義務化されるほか、24年に施行されたフリーランス新法では、発注事業者に相談窓口など体制整備を義務付けている。
一方、職場での実態はどうだろうか。「窓口体制などの形を整えても、いざハラスメントの相談が寄せられた時に“機能する”組織は多くはないのが実際です」と山本さんは明かす。現場で機能する相談窓口のポイントとして「信頼される」「機能が明確」「対応が一貫している」の3つをあげる。
「窓口に相談することは、実際には大変な勇気がいります。それでも『この苦しい状況を何とかしてくれるかもしれない』と組織に期待するからこそ相談するわけです。それに応えるために、窓口担当者が相談しやすい雰囲気をつくり相談者の気持ちに寄り添うこと、守秘義務を徹底することなどは信頼構築のためにも重要です」
次に窓口の果たすべき「機能」が明確になっていない場合が少なくないという。「とりあえず話を聞く」という形で、その後の対応方針があやふやといったケースだ。山本さんはカウンセリングと対比しつつ、相談窓口の目的は「正確な情報を組織に報告すること」とする(図1)。

「ハラスメントが実際にあったか否かの事実認定や調査、処分などは組織として別途対応すべきことです。窓口担当者の役割はまず相談者から内容を聞き取って記録に残し、正確に報告すること。そのためにも、担当者が聞き取りの段階で、安易にハラスメントがあったなどと相談者に“同調”することは避けるべきです。まず気持ちに寄り添う“共感”の姿勢が求められるでしょう」

その上で対応が一貫していること、つまり窓口で対応できることとできないことをあらかじめ明確にし、対応のブレを生じさせないことが、後々のトラブルを防ぐことにもつながる。この点と関連して、対応のフロー図を定めておくことが大切だという。
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