
1981年味の素株式会社に入社。事業部でのマーケティング担当を経て2005年にCSR部を立ち上げ全社のCSRマネジメントを担当。17年から人事部で「ビジネスと人権」の社内導入を進める。22年味の素社を退職後、一般社団法人JP-MIRAIアドバイザー、 ザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF)社会的サステナビリティWG支援。
2027年4月に施行予定の外国人育成就労制度をめぐり、労働者が送り出し機関などに支払う手数料の上限を月給の2カ月分とする政府省令案に対し、「国際基準に適合しない」として企業の立場から警鐘を鳴らす声があがっている。食品製造や小売など消費財の国際業界団体であるザ・コンシューマー・グッズ・フォーラム(CGF、加盟企業従業員数約1000万人)の中尾洋三さんは、「ブローカー費用や賄賂なども含まれる不透明な手数料を『2カ月分までは取ってよい』とのメッセージになりかねない。まず積算見積もりで手数料を透明化し、交渉力のある形で総額を落としていく取組みが求められる」と強調する。
■ベトナムは65万円のうち25%超が内訳「不明」
現行の技能実習制度にかわる制度として創設された育成就労制度では目的規定を「人材確保」と明確化し、「特定技能」制度との接続などキャリアアップの仕組みを拡充。同産業内での転籍制限の緩和のほか、事実上労働者の借金となっている送り出し機関への手数料が高額とならない仕組みの導入などを定めており、現在制度の詳細を規定する政省令案の検討が進む。
この手数料の問題に焦点を当て、ビジネスと人権ロイヤーズネットワークなどが5月にシンポジウムを開催。登壇した中尾さんが特に問題視するのが、政省令案では「2カ月分」という上限を設けるものの、その内訳に触れていない点だ。「まず不透明な費用を可視化する積算見積もりを、送り出し機関に課す仕組みが必要」と指摘する。

外国人労働者が負担している手数料の全貌を把握すること自体が難しいという指摘を裏付けるのが、技能実習生が来日前に母国の送り出し機関に支払った費用を、実習生に尋ねた出入国在留管理庁の調査結果(図表1)だ。

支払い費用総額の平均について、65.6万円で最多のベトナムから9.4万円で最小のフィリピンまで大きな格差が見てとれる。背景には国ごとに異なる規制のあり方がある。例えばフィリピン政府は、労働者本人からの仲介料の徴収を法律で禁じているため負担総額が少ない。
さらに費用内訳のうち「不明」、つまりいずれの費用にも回答がないが費用総額には計上されている費用が、例えばベトナムでは16.7万円と総額の25%を超える。不透明な費用支出が就労前の実習生の借金として膨らんでいる実態が窺える。
日本も批准する民間職業仲介事業所に関するILO(国際労働機関)条約第181号では、労働者からの費用徴収を直接・間接を問わず禁じている。借金を負った脆弱な立場での就労が、強制労働や不当な権利侵害に繋がるためだ。シンポに登壇した指宿昭一外国人労働者弁護団代表は、「日本国内でも労働基準法6条で中間搾取の禁止を、職業安定法32条の3第2項で求職者からの紹介手数料の徴収を禁止しています。国内法で刑事罰付きで禁じていることを、育成就労制度で働く労働者には『月給の2カ月まで』と許容することが国際的に通るのか」と疑問を呈する。
■不要なコスト削減、受入れ企業の交渉力で
この情報へのアクセスはメンバーに限定されています。ログインしてください。メンバー登録は下記リンクをクリックしてください。


