円安、コスト上昇のしわ寄せ小規模企業に 新しい資本主義とは?②価格転嫁

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昨年から続く原材料価格の高騰に円安が重なり、企業の事業運営は緊迫の度を増している。コスト上昇を価格転嫁できるかが明暗を分けるが、その可否は事業規模に大きく左右されることが統計調査で示されている。政府は「新しい資本主義」に向けて10月に示した総合経済対策で、価格転嫁の拒否を不当に繰り返すなどした企業名を公表する方針を発表。サプライチェーン(供給網)を含めた取引環境の適正化が、来春の労使交渉でも焦点の一つとなりそうだ。

■小規模企業にしわ寄せ

2022年4~6月の企業業績を、対前年比増減額で示したのが図表だ。全規模の合計額では、売上高の増加額(22.6兆円)が原価の増加額(18.1兆円)を上回り、粗利益は4.5兆円(前年同期比5.7%)増加している。全規模の数字では、企業活動は好調なことが分かる。

しかし規模別でみると状況は一変する。資本金2000~5000万円の企業では、売上増加額と原価増加額はほぼ同程度で、営業利益や経常利益は減少。資本金1000~2000万円の企業では、売上高や原価、営業利益、経常利益もすべて減少し、従業員数は32.2万人(同4.6%)減少している。

統計調査から浮かぶのは、企業規模や受発注関係を背景にした交渉力の違いが価格転嫁の可否を分け、それが事業収益や従業員の雇用にまで深刻な影響を及ぼしている実態だ。

■サプライチェーン全体での付加価値向上へ

政府が10月にまとめた総合経済対策では、中小企業が賃上げ可能となる環境整備に向け、①労務費・原材料費などコスト上昇分の取引価格への反映を下請企業と協議することなく据え置く、②下請企業が取引価格の引き上げを求めたにもかかわらず、書面などでの理由の回答もなく価格を据え置く――の2点を不適切な対応と規定。多数の下請に行っていたり、過去に繰り返している場合には企業名を公表するとした。

同対策では独占禁止法や下請代金法違反の取り締まり、公正取引委員会(公取委)の執行体制強化にも触れた。公取委は10月、携帯電話大手の販売代理店がスマートフォンを「1円」など極端な安値で販売している問題をめぐり、携帯大手の優越的地位の乱用がないか独禁法40条に基づく強制権限を使った調査に乗り出すなど、取引慣行改善に向けた動きを強めている。

また厚生労働省と中小企業庁、公取委が連携して進めているのが、毎年11月の「『しわ寄せ』防止キャンペーン月間」だ。「過重労働解消」と「下請取引適正化」の取組みを組み合わせ、親企業と下請企業の規模ごとに分けた情報や事例集の発信を通じた啓発、経営トップセミナーの開催などを展開している。

企業側の取組みも広がっている。中小企業庁や内閣府が中心となり2020年に導入された、発注者の立場から自社の取引方針を宣言・公表する「パートナーシップ構築宣言」は、22年9月末時点で1万4269社。急速に増加しているものの、宣言企業のうち資本金3億円超の大企業は945社と全体の1割に満たず、業界にもバラつきがあるなど今後のさらなる広がりにも期待がかかる。

サプライチェーン全体での付加価値向上に向けて、適切な価格転嫁が進むのか。来春の労使交渉においても重要な焦点の一つとして注目される。

「第4回 未来を拓くパートナーシップ構築推進会議」資料から