■協定方式になぜ偏る
派遣労働者の最低賃金として、職業安定業務統計が使用されている可能性が浮上している。
21年度労働者派遣事業報告書を提出した約4万カ所のうち、400カ所を抽出して添付されていた労使協定書の記載状況を、厚生労働省が集計し た。派遣労働者の待遇決定をめぐり、2020年6月1日時点で「労使協定方式」を選択した割合は、前年度比0.4ポイント増の88.2%に微増した。他方で、「派遣先均等・均衡方式」は同0・4ポイント減の7.8%に微減しており、労使協定方式に偏る傾向が鮮明になった。
労使協定方式になぜ偏るのか、その要因を探るべく労使協定書の賃金の記載状況をみる(表)。
まず基本給・賞与・手当などを労使協定に定めるに当たって、職種別の基準値として「19年賃金構造基本統計調査」ではなく、「職業安定業務統計」を使用した割合に着目。使用割合は100%から76%と幅があるが、サンプルサイズを満たした49業種全てで、賃構統計よりも賃金が低く出る傾向にある職安統計の使用割合が上回った。49業種のうち、職安統計の使用割合が100%だったのは実に23業種。残る26業種をみても、16業種で職安統計の使用割合がこの1年間で上昇している。
また職安統計で示している職種別の基準値 (0年)と、協定対象派遣労働者の賃金(基準値0年)の下限額の中央値を比較した。 賃金下限額が職安統計の基準値を上回っていたのは、「著述家、記者、編集者」「音楽家、舞台芸術家」「一般事務員」「生産設備(機械)」「機械整備・修理の職業」「機械検査の職業」「その他の輸送の職業」。人材確保の難しさや専門性の高さなどから、これら8業種が職安統計より高い賃金を設定していた。
一方、職安統計の基準値が賃金下限額を上回っていたのは「自動車運転の職業」「運搬の職業」の2業種。職安統計の使用割合も88%と高く、自動車運転や運搬の職業に就く派遣労働者が不当に低い待遇に甘んじて働いている可能性を示した。
注目すべきは、40業種と大半が賃金下限額と職安統計の基準値が同額となっている点。低賃金の職安統計の基準値に賃金下限額の中央値が張りついており、すなわち職安統計が派遣労働者の最低賃金化しつつあることを裏づけた。
このほか労使協定方式で求められる賃金の改善方法は、「高度な就業機会」が76.7%で最も多い。「より高度な派遣就業機会を提供する」といった意味らしいが、賃金増が明確な「昇給」が52.6%、「別手当の支給」が38.7%にとどまるのは、同一労働同一賃金実現の懸念材料といえる。