奨学金の返済について、「約1割が自己破産を検討」(NPO法人POSSEら調査)など深刻な状況が明らかになるなか、社員が抱える負債を一部代理返済する制度を10年前に創り、継続的な支援から人材確保や長期雇用に結び付けている企業がある。ブライダル大手のノバレーゼ(東京都中央区、従業員数1670人)は、これまでに計63人の返済を支援。小高直美総務人事部長は、「『スタッフの幸福の追求』という基本方針を(制度を通じ)本気で伝えることが、信頼関係やエンゲージメントの高まりにつながっている」と力を込める。
■当事者社員の声から 「自身が幸せでなければ」
ノバレーゼの奨学金返済支援制度は、返済残高のある正社員に対し、勤続年数「5年」と「10年」の時点でそれぞれ100万円ずつ、最大200万円の未返済分を支給する(表)。制度開始10年で計5930万円を支給。63人の対象者のうち満額支給者は3人だ。
制度創設のきっかけは、「奨学金の返済を負担に感じている」という社内の声を聴いた総務人事部員の発案。同社員自身も返済を抱える当事者だった。実態を調べようと新卒で入社した4~5年目社員らに社内ヒアリングを行うと、30人中9人と3割の社員が奨学金返済を抱え、返済額も平均300万円程度に上るなどの実態が分かった。
2012年当時、企業による返済支援は「聞いたことがなかった」ものの、制度創設に向けて検討を進めた背景を小高さんはこう話す。
「スタッフ自身が幸せでなければ、お客様を幸せにすることはできない――『スタッフの幸福の最大化の追求』という人事基本方針に基づいて、安心して働ける環境に向けて役員会をはじめ検討を進めました」
最も難しかったのは、奨学金を借りていない社員との差だ。同じ仕事をしていながら支給の有無が分かれる点を、平等性の観点からどう説明するか。そもそも、会社が社員の懐事情まで関与すべきなのかという意見もあった。
最終的には、「学生時代の家庭の財政事情は、本人の責任によるものではない」という判断から、個々の社員の置かれた状況をサポートすることが重要だと導入に踏み切った。
制度利用者からは、「40代でようやく返済、果てしないと感じていたが、約半分の期間で完済できた」「会社に恩返ししたい」といった声が上がる。平均勤続年数も、流動性の高い業界の特性もあり10年前は約3年だったが、同制度を含めた働く環境の支援施策により21年には6.2年と約2倍に改善している。
■人材確保のニーズ背景に 地方創生へ自治体も
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