仕事と家庭の両立など柔軟な働き方に資する一方、メンタル不調や長時間労働にもつながりやすいといったテレワーク勤務の課題がコロナ禍で浮き彫りになるなか、勤務時間外の仕事のメールや電話などの対応を拒否できる「つながらない権利(right to disconnect)」に関心が高まっている。フランスをはじめ各国で法制化が進み、日本国内でも同様の趣旨のガイドライン規程や、労働時間規制に関する7月の政府検討会報告書でも議論に上っている。実務の現場への影響や可能性を探る。
■終業時間外の対応増える
総務省の「2021年通信利用動向調査」によれば、テレワーク導入企業の割合は前年比4.4%増の51.9%。「今後導入予定」の5.5%を加えると57.4%と6割近くに及ぶ。コロナ禍前の19年の導入率20.2%(導入予定含め29.6%)と比べ、急拡大したことが分かる。
産業別に導入割合をみると、従来から比較的高かった「情報通信業」(97.7%)や「金融・保険業」(82.4%)だけでなく、「製造業」(60.1%)や「建設業」(57.9%)でも6割前後に上るなど、多様な産業で導入が進む傾向にある。
一方、急速な導入に伴い「権利侵害(就業時間外の対応)も拡大が進んでいる可能性がある」との調査結果を、NTTデータ経営研究所が21年4月に発表。「つながらない権利」について、コロナ禍前の19年と回答を比較している。
同調査によれば、上司から就業時間外に業務に関する緊急性のない電話やメール、LINEなどに「ほぼ毎日対応している」従業員の割合は、19年の5.6%から21年の8.3%と約1.5倍に増加。「週1、2回程度」は同9.3%から14.2%に増加していた。合計すると、19年の14.9%から21年には22.5%へと7.6ポイント増えている。
さらにこうした連絡に「対応したいと思う」割合は18.6%、「できれば対応したくないが、対応するのはやむを得ないと思う」は46.7%に上った。「対応する」との回答が計3分の2を占め、そのうち7割以上が「できれば対応したくない」と考えていることが分かった。なお「対応しない」は15.2%、「(電源や通知をオフにして)そもそも連絡を受信しないようにする」は8.4%だった。
テレワークや在宅勤務のボトルネック(全体の業務や成果の停滞を招いている課題)については、「社内の状況がよく分からない」(38.7%)が最も多く、「相手・同僚の顔が見えない」(33.1%)、「手元に必要な情報がない」(31.9%)が続いた。
調査から浮かぶのは、テレワークや在宅勤務で報告・連絡・相談や社内コミュニケーションの機会をつくる実施体制が不十分なまま導入を進めざるを得ないコロナ禍での状況が、従業員やマネジメント層の「社内の状況が分からず顔が見えない」という不安要素となり、結果的に業務時間外での連絡といった権利侵害に拍車がかかってしまう悪循環だ。
■カギは組織風土醸成、アプリ活用も
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