■公共放送の在り方が問われている 「手続きの透明化」の実現は?
NHK収入は受信料で賄われているにもかかわらず、視聴者は会長人事にかかわることはできない。過去に参院総務委員会が求めた 「選考の手続の透明化」の実現もほど遠い。1月25日に新会長に元日本銀行理事の稲葉延雄氏(72)が就任するまでの経緯を追うことで、「みなさまのNHK」の在り方を考える。(臺宏士・ライター)
■新会長に元日銀理事
NHKの新会長に元日本銀行理事の稲葉延雄氏(72)が就任した(1月25日)。任期は3年。NHK会長は2008年から6人続けての民間登用となった。国民への影響力の大きいNHKの会長人事はその時々の政権の意向が働く「政治銘柄」と言われており、今回の会長選びをめぐっても岸田文雄首相の関与を報じるメディアは多かった。
NHK収入の大半は、視聴者から事実上の義務として徴収する受信料で賄われているが、視聴者は、会長人事にかかわることは全くできない。放送法は、首相から国会の同意を得て任命される、最高意思決定機関・経営委員会の委員(12人)が選ぶことを定める。稲葉会長以前までの5人が就任時の首相は次の通りだ。
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▽福地茂雄(元アサヒビール会長)=08年1月~11年1月、福田康夫首相
▽松本正之(元JR東海副会長)=11年1月~14年1月、菅直人
▽籾井勝人(元三井物産副社長)=14年1月~17年1月、安倍晋三
▽上田良一(元三菱商事副社長)=17年1月~20年1月、安倍晋三
▽前田晃伸(みずほフィナンシャルグループ会長)=20年1月~23年1月、安倍晋三
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5人のうち直近の3人は安倍氏が首相の在任中だったが、実は福地、松本の両氏の会長起用も安倍氏の意向を踏まえ、同氏を囲む財界人の集まりである「四季の会」の関係者が動いたとされる。
具体的には福地氏の際は、第一次安倍政権の際に経営委員に任命され、委員長にも就任した古森重隆氏だった。当時は富士フイルムホールディングス社長だった。松本氏の際も同じ「四季の会」メンバーで、JR東海元社長・会長の故・葛西敬之氏だったとされる。
政権に繋がりのある会長になるとどのようなことが起こるのか。
しばしば語られるのは、安倍氏が首相在任中だった2017年、安倍氏の友人・加計孝太郎氏が理事長を務める学校法人「加計学園」(岡山市)が、愛媛県今治市の国家戦略特区で同学園・岡山理科大学に獣医学部を新設しようとするなかで安倍氏が絡む問題が浮上した。
NHKは「官邸の最高レベルが言っている」などとする文部科学省内の文書を入手。ところが、同文書の存在を報じたのは朝日新聞(17年5月17日朝刊)。当時、菅義偉官房長官が「怪文書」と表現し、後に同省内から見つかった文書だ。実はNHKは前夜16日深夜の加計学園関連ニュースに映像として文書を写り込ませる工夫をしたが、肝心の部分は黒塗りだったのである。理由は明らかになっていない。
前田会長時代には経営に関する干渉があった。NHKが22年10月に発表した経営計画(21年度~23年度)の修正案で盛り込まれた23年10月からの約1割の受信料値下げだ。この背景には物価高対策に苦心する政府・自民党の圧力があった。前田会長は当初、衛星契約(口座振替・月額1950円、値下げ後)のみの値下げを進めていたが、地上契約(同・同1100円、同)にも広げざるを得なくなり、値下げ原資を700億円から1500億円に積み増した。
NHK関係者が、皮肉を込めて「NHKは安倍チャンネル」と表現するのはこうした介入がしばしば現実に起きるためである。こう考えると、NHKは公共放送と呼ばれてきたが、国策放送とした方が実態は分かりやすいかもしれない。
■官邸が関与?
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