副業兼業促進とはいうけれど(山本圭子)

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■連載:人事考現学(著者:山本圭子・法政大学法学部講師)

厚労省では、2020年9月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表(直近は22年7月に改定)して以来、副業・兼業の促進に舵を切ってきた。労災保険についても、複数就業者について、複数の就業先の業務上の負荷を総合的に評価して労災認定する、給付において非災害発生事業場の賃金額を合算する、雇用保険について65歳以上の労働者に本人申出による2つの事業所の労働時間を合算して雇用保険適用する制度の試行を行ってきた。

22年10月に公表された経団連「副業・兼業に関するアンケート調査結果」によれば、会員企業において自社の社員が社外で副業・兼業することを「認めている」企業は53.1%、「認める予定」17.5%、合わせれば約7割が副業・兼業容認らしい。

これと前後して判決言い渡しがあったのが大器キャリアキャスティングほか1社事件だった(大坂高裁2022年10月14日判決)。24時間営業のセルフ給油所に深夜早朝に勤務する短時間有期雇用労働者(X)が、Y1社とY2社での兼業による長時間労働・連続勤務を原因とする精神疾患罹患について使用者の安全配慮義務違反と雇止めの効力を争った。Y1社では、未承認での兼業を禁止していたが、XはY1社には無断でY2社での兼業を開始した。Y1社は、Y2社の孫請け企業だった。Y1社は、Xの兼業に気づいて、「労基法に違反するから、Y2社を辞めてくれ」と申し入れている。

Xは精神疾患による欠勤前1カ月間には303時間にも及ぶ労働があり、2社合わせると約5カ月間休日がない状態であった。労基署は業務上疾病で労災認定した。1審(大阪地裁2021年10月28日判決)は、連続かつ長時間労働の発生は、Xの積極的な選択によるものであるとして安全配慮義務に基づく請求を退け、Y1社による 就労状況、業務指導に対するXの対応状況(業務指導書への署名押印拒否等)を理由とする雇止めを有効とした。

控訴審も雇止めは有効としたが、Y1社の安全配慮義務違反が一部認められた。兼業先のY2社は、Y1社の元請企業であったことから、Y2社での就労状況を問い合わせて対応すべきだったと判断されている。他方、Xが、自ら進んでY1社の所定休日にY2社で兼業を始め、Y1社でも自発的に長時間シフトに入っていたことなどから4割を過失相殺している。

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