役員報酬と社員込みの人件費支払能力分析(役員報酬の適正分配率 第5回)

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【連載】役員報酬の適正分配率 業績連動式賞与制で年収倍増を⑤ 著者:窪田千貫

1 賃金・賞与の支払能力には上限と下限がある

会社が役員および全社員に支払う月例給与や賞与、退職金などの原資には、これ以上は払えないという上限がある。この支払の上限である支払限度を超えて支払うと、利益の内部留保金を食い潰すだけでなく、事情によっては赤字決算となり、財務体質の脆弱な会社は、取引金融機関から「貸渋り」にあって、破綻する危険性が高まり、なかには再起を図る減量化のために、「人減らし」といった固定費の削減を余儀なくされるところがでる。

もともと賃金・賞与は、標準生計者を下限とし、会社の支払能力を上限として、その範囲内に収まるようにバランスを調整しながら、経営活動をすることが、経営陣の重要な役割の一つであり、これが総額人件費管理の基本なのであるが、これは何人も否定できない厳然たる哲理である。

ところが、時々、新聞のコラムに、賃金の支払能力がないならば、企業がこれまで、こつこつと蓄えてきた「内部留保分を賃上げに回せ」という記事をみるが、これは無謀だといわねばならない。なぜならば、将来の業績向上に不可欠な未来投資計画が無視され、これと同時に財務体質を脆弱化せしめる結果を招くことになるからである。そのような状態となった場合、政府や金融機関は、トコトン全面的に支援してくれるか、といえば、答は「ノ―」である。

したがって、こうした無責任な発言をする人は、企業経営が何たるものかを、まったく知らない人々だといわざるを得ない。

また、内外の諸事情によって業績が著しく低下し、人件費の支払能力が緊迫した場合、その対応策の一環として、希望退職者を募る人員整理は、万策尽きた最後の手段であり、社員の雇用維持を優先することは、経営陣の社会的責任である。なぜならば、雇用とは、何ものにも代え難い人間の根本的な生活維持に関わる人権的な問題だからである。

したがって、このような事態にならぬように、付加価値生産性の向上を実現させることが不可欠なのである。なぜならば、社員一人当たりの月平均付加価値、または一人1時間当たりの付加価値生産性が増えると、人件費の支払能力が高まるからである。

そこで、つぎは、その付加価値分析により人件費の支払能力の算出方法と、総額人件費管理のポイントを説明しよう。

2 人件費の支払能力をみる付加価値分析と5つの指標

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