植田充紀氏、小林智氏らに現代の名工

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厚生労働省はこのほど、2022年度卓越した技能者「現代の名工」を決定した。手かじ工の植田充紀氏(京都府/71歳)、仕上機械工の小林智氏(長野県/ 67歳)、織布工の小玉紫泉氏(京都府/ 70歳)、理容師の武藏均氏(千葉県/ 61歳)など150人を選出した。

以下、厚生労働省発表資料から抜粋。

■植田充紀(うえだみつとし)手かじ工、71歳

[鎚起四分一銀花器]角板を伸ばして立体に成形し、松ヤニを使って金鎚で模様を出す。

【打てば響き、磨けば光る】

氏は、金属の性質を熟知し、成形から最後の仕上げまで一貫制作をしている。金属工芸における伝統的な鍛金技術を駆使し、特に難しいとされる煮込み着色にも優れ、素朴でありながら緻密で繊細な氏の作品は業界でも高い評価を得ている。伝統工芸品で培った鍛造技術による氏の作品は、軽量で使い勝手が良いことが特徴である。

また、組合理事として若手職人に技術のアドバイスをするなど後進の育成にも熱心である。

【常に完成度を求めて努力とチャレンジを欠かさず十分に充足出来るまでネバーギブアップである】

何かを作るという行為は原初的な行いであり、それに惹かれたのは極自然な成り行きで、運よく良い師に巡り会え、正に「求めよさらば与えられん」であり、あとは「好きこそ物の上手なれ」である。

仕事に関連して色々とイヤな事柄が出て来るのは何処も同じであるが、それは苦労と言うよりくだらない事だった様に思われる。技術の習得などの苦労は、楽しい思い出のひとつである。


■小林智(こばやしさとし)仕上機械工、67歳

門型平面研削盤にて作業風景
ブロー成型金型部品、ダイカスト金型部品

【揺るぎない技術、精度仕上げに挑戦を続ける匠】

NC加工化が進む中で汎用機にも強い拘りを持ち続け、NCでは加工する事の難しい薄物加工、微細調整が必要な現物嵌合など、サブミクロン精度の仕上げを実現する優れた技能を有する。

製造現場では、最先端NC装置と汎用機、自社開発した傾斜式鋳造機等の専用機を効率的に融合させ、多品種少量生産にも対応する固有技術を生かした製造ラインを構築し、業績向上に貢献している。

自らの背中を見せながら社内の技能研鑽環境を整え、社員を指導し後進の指導育成に継続的に取り組んでいる。

【失敗を恐れず強い心で常に挑戦】

中学卒業後ものづくりの基礎を学び、出稼ぎの父、賄い仕事に出る母と揃って正月を迎えたい一心から、18歳で「小林製作所」(現千曲技研)を父と創業。当初はバルブメーカーの下請けとして徹夜の毎日。その後、自動車二輪の金型を手掛けるようになるが、いかに短納期、高精度で仕上げる事が出来るか長きにわたり試行錯誤の毎日であった。

会社の成長に伴い、培った技術を後進に伝える訓練場「チャレンジ道場」を敷地内に創設。技能五輪全国大会選手も輩出している。さらに、「ものづくりマイスター」として企業、高校等で指導にあたる。今後は「現代の名工」として、更なる技術の普及、地域貢献に努めたい。


■小玉紫泉(こだましせん)織布工、70歳

題名「エジプト」 古代エジプト文明出土デザインにオリジナル立体織を融合

【伝統的なつづれ織に独自の織技術を融合】

氏は西陣爪掻本綴織の職人であり、デザイン企画から材料の選定、製織まで行っている。西陣爪掻本綴織は、経糸を文様の部分だけ杼ですくい、ノコギリの歯のように刻まれた爪や筋立てで、緯糸をかき寄せながら一人で少しずつ織っていく技法で、職人のセンスや高度な技術が要請される。この伝統的な技法以外に飾り紐と一体化した織物の製織技術を考案し、実用新案を得ており、氏のオリジナル作品は国内外で評価が高い。

また、マスメディアでの出演、女性伝統工芸士展等を開催するなど、西陣爪掻本綴織の発信や高度な技術力、ブランドを全国に知らしめ、職人の地位向上や業界の発展にも貢献している。

【誰もが楽しく幸せに感じられ、立体的かつ芸術的な帯と作品】

自分で図案を描き織ることが出来る「つづれ織」に28歳で出会い、難しい作業ゆえ生涯をかける仕事と確信。

指の爪で織る細かい作業なので、とてつもない根気が必要。

不況の時ほど日頃考えていた織り方の研究チャンスと捉え、独自の技を磨いてきた。立体的かつ芸術的な帯の考案を自身の織人生のテーマとし、他人(ひと)に驚きと感動を与え、また笑顔になっていただく作品作りに日々精進している。


■武藏均(むさしひとし)理容師、61歳

スライドカットの作業風景
流れと軽さを活かしたショートボブスタイル

【卓越したカット技法を有し後進の指導育成で理容業界に貢献】

氏は業界の第一人者であり、時代時代の流行にあわせた髪型を整えるカッティング技法をはじめ、多くの理容技術において深い知識と高い技術を有している。

特にマテリアルカット(質感カット)の一つの技法であるスライドカット技法に優れ、変幻自在に髪の毛を操る卓越した技能により、自由自在に顧客の望むヘアスタイルを提供している。

自店従業員の育成を積極的に行うだけでなく、全国理容生活衛生同業組合連合会の中央講師としても全国に出講し、多数の理容師を指導する等、後進の指導育成に多大な貢献をしている。

【『心に触れる技』こそが、仕事の本質である】

一般企業に誘われていた時の、父親の寂しそうな背中を見て、家業を継ぐことにする。その父親が倒れて、修行半ば2年9か月の短さで実家に帰り、仕事が上手にできず、失客を繰り返す中で、如何にお客様に喜んでいただけるかを考え創意工夫、技術の向上に励んだ。

人との触れ合いから始まり、人によってしかできない『心に触れる』ことを必要とし、そして画一的ではなく個々に合わせた『技』を提供する。

この流れに沿った素晴らしい業の仕事『技』を、今後もさらに研鑽し、人と人との絆を大切にしながら、次の時代の若者に伝え人材の育成、大きくは社会貢献というミッションのもと頑張りたいと考えている。