コロナ禍飲食業の整理解雇 アンドモワ事件(令和3・12・21東京地裁判決)

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コロナ禍で経営が厳しくなった居酒屋が300店舗のうち10店舗を残し、それ以外を撤退。人員削減の必要性は認めたものの、手続きが十分ではない、と解雇無効と判断されました。解雇予告通知書を送り付け、予告の電話を入れただけで、説明も協議もしていないことは不十分と断じています。

■判決のポイント 必要性あるが説明や協議が不十分 会社には十分に説明する義務がある

コロナ禍で経営が厳しくなった居酒屋の整理解雇が、手続きの妥当性が欠けているとして、無効とされたのが本件です。

300店という店舗展開もあいまって、店舗営業を休止しても人件費や地代家賃などで毎月6億円以上の固定費の支出が避けられず、人員削減の必要性は認めました。一方、労働契約法3条4項の「信義誠実の原則」から、会社には「対象となる労働者に対し、整理解雇の必要性や、その時期・規模・方法等について十分に説明をしなければならず、労働組合がなく、全労働者を対象とする説明会を開くことができない場合であっても、個別の労働者との間で十分な説明・協議をする機会を設ける必要があるというべきである」としています。

3カ月前には事業縮小の方針を決めていたのに、説明や協議をしていないのは「手続きの妥当性が著しくかけている」と断じています。

労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求が認められ、令和2年10月から令和3年9月までの月給から、再就職先の収入を控除した額について、労働者に対する未払い賃金として認められています。

■判決の要旨 説明もその努力の形跡もない 人員削減の必要性はあったが

「被告が固定費等の削減として約300店舗あった居酒屋のうち収益改善の見込みが高いと判断した約10店舗だけを残し、それ以外の店舗の経営からは撤退するとの経営判断をしたことは、不合理であるとはいえない。そして、96%以上の店舗経営から撤退することに伴い、これらの店舗で就労していた相当多数の従業員が余剰人員となったことは明らかであり、また、これらの人員の全てを、残った約10店舗や被告の本社機能を担う部門で吸収することはおよそ不可能であった」

また、解雇後に役員報酬を全て削減したが、「それを削減するだけでは賃金ショートのおそれを回避するに十分でなく」解雇当時、被告の人員削減の必要性は高かった。

「本件解雇当時、被告には相当高度の人員削減の必要性があったと認められ、当時の状況に照らすと、解雇回避のために現実的にとることができる措置は限定されていたことがうかがえ、被解雇者の選定も不合理であったとは認められない。しかしながら、被告は、休業を命じていた原告に対し、一方的に本件解雇予告通知書を送り付けただけであって、整理解雇の必要性やその時期・規模・方法等について全く説明しておらず、その努力をした形跡もうかがわれない。上記のとおり相当高度な人員削減の必要性があり、かつ、そのような経営危機とも称すべき事態が、主として新型コロナウイルス感染症の流行という労働者側だけでなく使用者側にとっても帰責性のない出来事に起因していることを考慮しても、本件解雇に当って、本件解雇予告通知書を送付する直前にその予告の電話を入れただけで、それ以外に何らの説明も協議もしなかったのは、手続きとして著しく妥当性を欠いていたといわざるを得ず、信義に従い誠実に解雇権を行使したとはいえない」「本件解雇は、社会通念上相当であるとは認められない」

■解説

厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」(9月30 日現在集計分)で、解雇等見込み労働者数は 13万6897人です。 コロナ禍による整理解雇の有効性については、従来の判例の整理解雇の4要件ないし要素が厳格に課されます。それは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力義務、③人選基準の客観性・合理性、④労働組合や労働者への説明・協議義務です。

本件は①の人員削減の必要性は認め、②は解雇回避のために現実的にとることができる措置が限定的だったとしています。問題となったのは④で、個別に整理解雇の必要性を説明したり、協議をする場を設けることが現実的に不可能であったとは考え難いこと、対象労働者に解雇前に整理解雇の必要性や、時期・規模・方法等について説明することができないほどの事情があったとは認められないとし、解雇の手続きの妥当性が著しくかけていたとして、手続きの問題から解雇は無効と判断しています。

予見困難な事態を契機と 一応の手続的配慮がされた

■龍生自動車事件(東京地裁令和3・10・28判決)

コロナ禍の影響によるタクシー乗務員の解雇。

会社は、全従業員に対し、令和2年4月15日、近年の売上げ低下および新型コロナウイルス感染症拡大に伴う更なる売上げの激減により事業の継続が不可能な事態に至ったとして、同年5月20日をもって解雇するとの意思表示を行なった。

解雇からその効果が発生するまでの期間を解雇予告期間とし、その後、会社は同年6月2日、臨時株主総会の決議により解散、清算手続きを開始した。これに対して、甲は本件解雇が無効であると主張して労働契約上の地位確認、および本件解雇および本件訴訟における会社の主張・代理人の言動が不法行為を構成するものとして損害賠償等を求めた。

解雇を解散にともなうものと認めた上で、「本件解雇は新型コロナウイルス感染症の感染拡大や緊急事態宣言に伴う営業収入の急激な減少という予見困難な事態を契機としてなされたものであって、被告が原告に対し事前に優位な情報提供をすることは困難であった上、解散後には一応の手続き的配慮がされていたことからすれば、本件解雇が著しく手続き的配慮を欠いたまま行なわれたということはできない」と解雇は有効と判断。

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