「原風景」残したい

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■篭橋まゆみさん(岐阜県植物研究会会員)㊦ おんな流 おとこ流~仕事を訪ねて~(50)

ハナノキを調査する篭橋さん。御嵩町最大の群生地であるこの谷は残土処分場予定地から外されたが、処分場に挟まれる計画だ(2022年6月20日)

リニア中央新幹線トンネルの掘削工事で掘り出される残土処分場計画に揺れる岐阜県御嵩町。カドミウムやヒ素などの重金属が基準値以上の「有害残土」(JR東海や同町は「要対策土」「対策土」と呼ぶ)を町内で最終処分する計画を朝日新聞がスクープしたのは2019年10月7日のことだ。(井澤 宏明)

渡邊公夫町長は、JR東海からこの計画を初めて聞いたのは同年8月、町議会議員と同席した場のことだったと説明してきた。が、町が最近、議会に求められて公表したJR東海との打ち合わせ記録から、少なくとも17年4月には、町がJR東海に対し「要対策土については、(中略)町有地を借地(仮置き場)で使う選択肢はないか」と持ちかけていたことが分かってきた。

ところが、そのはるか前に町有地のリニア有害残土処分場計画を町関係者から伝えられていたと証言するのが町生物環境アドバイザーだった篭橋まゆみさん(67)だ。

篭橋さんが計画を聞いたのは12年早春。11年5月には、国土交通省がJR東海にリニア建設を指示、工事実施計画を立てるための環境アセスメント手続きが進められていた時期と重なる。

「とんでもない計画を立てとる。ひょっとすると有害残土の処分場になる。下手をするとウランが入るかもしれんと自分はすごく心配してる。でも、自分たちではどうすることもできないから、町民に託したいんや、って資料をくれました」

同町のある岐阜県東濃地方には「ウラン鉱床」があり、かつては採掘もされていた。岐阜県や愛知県などには重金属を含む「美濃帯」という地質帯が分布、隣の可児市で03年、東海環状自動車道工事で出た残土に含まれていた黄鉄鉱による水質汚染で、魚が大量死したり稲作ができなくなったりする被害が起きた。この関係者の心配は根拠のないことではなかった。

篭橋さんに託されたのは現地の地図。地図上には現在公表されている「真多羅ため池」を残土で埋めるのと「瓜二つ」の残土処分場計画が示されていた。この関係者に現地を案内された篭橋さんは衝撃を受けた。

「御嵩にまだこんな自然が残ってるのってビックリしました。『御嵩の原風景』だって。ハナノキ、シデコブシ…。小さな小川が流れていて、丘のようなところは湿地帯になっていて、ミカワバイケイソウやら湿地性植物がたくさん生えている。今、そういう場所はゴルフ場になって、御嵩にはほとんど残されていないので」

■ハナノキ調査急ぐ

篭橋さんたち御嵩町版レッドデータブック調査担当有志による《ハナノキ調査グループ》は調査を急いだ。1本ごとに雌雄や樹高、外周を調べる「毎木調査」を07年に始めていたが、14年には残土処分場が計画されていると教えられた美佐野地区を集中的に調べた。

篭橋さんたちが8年間かけてまとめた「御嵩町のハナノキ自生地」。資料を託されたJR東海は貴重な湿地の生態系を守れるのだろうか

「ハナノキの調査結果をJR東海に提供して、そこが埋め立てに適さない土地なんだという意見を出す。私たちには、それしかやり方がなかった」

JR東海への情報提供を目的とした町生物環境アドバイザー会議が15年5月に迫っていた。会議に間に合うよう出版したのが前回紹介した「御嵩町のハナノキ自生地 毎木調査記録」だ。

篭橋さんはJR東海との会議に向けて、「生物分類技能検定」2級も受験した。アドバイザー仲間から「相手は調査会社のプロ。私たちはただの主婦で何の肩書もない」と勧められたからだ。

自身がアルバイトをしていたコンサルタント会社の社員らと一緒に受験したが、社員らは落ち、篭橋さんは合格。夫から「それは運命だなあ。『JR東海にモノ申せ』って神さまに言われとるから、会議に行ってこい」と背中を押された。

その後、JR東海に希少種の保全についての話し合いを提案し、町から生物環境アドバイザーなどの「退職」を迫られた顛末は前回書いた通りだ。

篭橋さんが経験したリニア残土処分場予定地を巡る理不尽な「事件」はこれにとどまらない。

処分場予定地のある「美佐野ハナノキ湿地群」は16年、環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い湿地」(重要湿地)に加えられた。重要湿地を紹介する同省ホームページには「東濃地域湧水湿地群」に含まれる湿地名が列記され、御嵩町の「前沢ダム周辺湿地群」もある。が、「美佐野ハナノキ湿地群」は見当たらない。篭橋さんは町の担当者から次のような「自慢話」を聞かされたという。

「実は環境省に電話して、重要湿地から『美佐野ハナノキ湿地群』の名前を消してやったんだ」

筆者が環境省に確認したところ、「美佐野ハナノキ湿地群」は確かに「重要湿地」に指定されているという。ホームページの個別の湿地名の後にある「など」に含まれると説明するが、そのような扱いになった経緯は分からないという。

■「消えた」重要湿地

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