いわゆる『シフト制』留意事項

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■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政(著者:濱口桂一郎)
 去る1月7日、厚生労働省は「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」という文書を作成し、関係団体に周知を依頼しました。
 この「シフト制」の問題については、本紙2021年1月25日号に「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」を寄稿し、日本で近年指摘される諸問題を挙げるとともに、それがヨーロッパ諸国で過去十年近くにわたって「ゼロ時間契約」として問題視されていたものとほぼ同じ問題であることを指摘し、2019年に成立したEUの透明で予見可能な労働条件指令の関係規定を紹介していました。今回の「留意事項」は、この「シフト制」に対して労働行政が初めて一定の考え方を示したものとして重要です。
 この「留意事項」では、「シフト制」を「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など。以下同様。)ごとに作成される勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」と定義し、従前から見られたいわゆる交替勤務(年や月などの一定期間における労働日数や労働時間数が決まっており、その上で、就業規則等に定められた勤務時間のパターンを組み合わせて勤務する形態)は対象外です。そして、シフト制を内容とする労働契約を「シフト制労働契約」、シフト制労働契約に基づき就労する労働者を「シフト制労働者」と呼んでいます。
 「留意事項」は、まずその「労働契約の締結時に明示すべき労働条件」の項において、「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなければなりません」とか、「労働契約の締結時に休日が定まっている場合は、これを明示しなければなりません」と述べていますが、これを裏返して言えば、「労働契約の締結時点において、始業及び終業時刻が確定していない日については、その日の始業及び終業時刻を明示しなくてもよい」、「労働契約の締結時に休日が定まっていない場合は、これを明示しなくてもよい」ということになります。そして、「シフト制」というものを「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、…勤務割や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような形態」と定義している以上、本文の記述はほとんど意味を有さず、それを裏返した記述の方が意味のある文章のはずです。
 ここは文章がいささか入り組んでいるのですが、上記に続く「労働条件通知書等には、単に「シフトによる」と記載するのでは足りず、労働日ごとの始業及び終業時刻を明記するか、原則的な始業及び終業時刻を記載した上で労働契約の締結と同時に定める一定期間分のシフト表等をあわせて労働者に交付するなどの対応が必要です」というのは、あくまでも「労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定している」ことを前提にした記述であって、裏返していえば、労働契約の締結時点において、すでに始業及び終業時刻が確定していなければ、「シフトによる」と記載することで足りるということになります。大変誤解を誘導するような記述ですが、筋道を辿ればそういうことになるはずです。
 おそらく、「明示しなくてもよい」と明示するのが嫌だったのでしょうが、現行法の解釈としてはそういうことになるというのが、この「留意事項」の言っていることです。ここは、労基法15条1項と労基則5条1項2号により「始業及び終業の時刻」や「休日」が絶対的明示事項となっていることとの関係で議論になり得るところですが、明示しようにも決まっていないのだから明示できないという理屈が優先し、契約締結時に始業・終業時刻が決まっていないような労働契約は違法だ(つまり「シフト制」はそもそも違法だ)という方向には行かないということです。それ自体は常識的な判断であるといえますが、そうすると、労働条件明示義務の一部が空洞化してしまいます。
 その代わりに「留意事項」が提案するのが、シフト作成・変更の手続と労働日・労働時間などの設定に関する基本的な考え方を労働契約に定めておくことですが、これはいかなる意味でも権利義務に関わるものではないことを明らかにするためか、「考えられます」という大変遠慮した記述になっています。「シフト制労働者の場合であっても、使用者が一方的にシフトを決めることは望ましくな」いとはいえ、決して違法とは言えないからです。「留意事項」がそれ自体としては労基法の解釈通達ではなく、単なる文書という扱いになっているのは、この故だと思われます。その「考えられる事項」は以下の通りです。

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