欧州委が持続可能性デューデリジェンス指令案、1.7万社義務化

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欧州委員会は2月23日、企業の持続可能性に関するデューデリジェンス指令案を発表した。児童労働や強制労働、搾取、気候変動問題などの人権・環境課題に対し、取引先を含め事業活動での負の影響を企業自らが特定し、是正・予防するよう義務付ける内容で、EU内外の大企業が対象。今後EU理事会と欧州議会で採択された場合、加盟国の2年間の国内法制化期間を経て運用が開始される予定で、欧州産業界からは負担増を懸念する声も出ている。日本政府は今夏をめどに、人権デューデリジェンスの国内企業向け指針策定を進めている。

■EU域内1.3万社、域外4千社

デューデリジェンスは、企業のサプライチェーン(供給網)における人権や環境リスクを企業自身が特定・分析・評価し、是正に向けた継続的な行動を起こすこと。2011年6月に国連人権理事会で承認された国際基準「国連ビジネスと人権に関する指導原則」(ラギー原則)のなかで定められ、SDGs(持続可能な開発目標)などの国際枠組みにも取り入れられている。

今回の指令案は、主に以下の7点を対象企業に求める内容だ。

  1. デューデリジェンスを企業の方針、行動規範、規則に組み入れる
  2. 事業から生じる人権・環境への実際の悪影響、および潜在的な悪影響を特定する
  3. 潜在的な悪影響について、予防するための行動計画を実施する。この点で問題のある取引先に対しては、予防のために必要な中小企業向け支援を行い、契約を通じた行動規範の順守・予防行動計画の実施を求めるとともに、状況を検証し、改善されない場合には契約中止や新規契約の見送り、潜在的な悪影響が深刻な場合には取引終了などの措置を行う
  4. 実際に悪影響が起きている場合、被害者への補償と是正措置計画を策定・実施する。さらに3.同様に、問題のある取引先に対しては是正のために必要な中小企業向け支援を行い、契約を通じた行動規範の順守・是正措置計画の実施を求めるとともに、順守状況を検証し、順守されない場合には契約の中止や、悪影響が深刻な場合には取引終了などの措置を行う
  5. 悪影響を受ける被害者や、労働組合、市民社会組織に開かれた苦情申し立て制度を設置する
  6. 自社や子会社、取引先の事業活動や対応策について、少なくとも12カ月ごとに定期的なリスク評価を行う
  7. 上記のデューデリジェンスの内容をWebサイトなどで公開する

義務化の対象となる企業は、EU域内/域外で基準が異なる。EU域内で設立された企業の場合、(A)世界中で年間純売上高が1億5000万ユーロを超え、かつ従業員が500人を超える企業、(B)世界中で年間純売上高が4000万ユーロを超え、農業・繊維・鉱物といった人権・環境リスクの高い特定分野の売上高が50%以上を占め、さらに従業員が250人を超える企業だ。

EU域外で設立された企業の場合、従業員の要件はなく、EU域内での年間純売上高が上記(A)(B)のいずれかの基準を満たす企業が対象だ。欧州委員会によれば、EU域内の1万3000社(全EU企業の1%)、EU域外の4000社が対象見込みという。(B)の対象企業は2年間の猶予措置をもうける。

中小企業は今回直接の義務化の対象とはならない。間接的に影響を受ける可能性のある中小企業に対し、ガイダンスやツールの開発、技術・財政サポートを行うとともに、大企業から中小企業への過度な負担の移転を制限するための措置などについても定めている。

義務化対象企業の取締役には、デューデリジェンスの実施を監督し、経営方針に組み入れる義務を規定。人権や環境への影響を考慮するよう求めた。なおデューデリジェンスの対象となる人権・環境上の具体的な項目は、今回の指令案付属書で詳細に規定している。

前出の(A)の対象企業には、地球の平均気温の上昇を1.5度に抑えることを定めたパリ協定に沿った持続可能な経済に整合的なビジネス戦略を策定することを求め、その達成度と取締役の変動報酬を連動させることを奨励している。

欧州委員会は、責任を持って調達された製品やサービスに対する消費者の選択志向の高まりや、企業の持続可能性を評価する投資の拡大などを背景に、デューデリジェンスが企業の競争力を高め、長期的な成長につながると指摘している。

対象企業がこれらの義務に違反した場合、加盟国は企業に売上高に応じた罰金を課し、また義務に違反して損害を発生させた場合には企業は賠償責任を負う。ただし取引先による違反の場合、契約上の保証があれば賠償責任が免責されることがある。

■産業界から負担増の懸念