労働者災害「補償」保険(濱口桂一郎)

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■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政

我々が普通「労災保険法」と呼んでいる法律の正式名称は、もちろんご存じの通り「労働者災害補償保険法」です。あまりにも日常的に目にしているので何の違和感も感じないかも知れませんが、よく考えると労働災害の「補償」の保険とはどういう意味なのでしょう。素直に考えると、労働基準法第8章に基づき労働災害の「補償」義務を負っているのは使用者であるので、その「補償」責任を担保するための保険だということになりそうですが、でも労災保険法はそういう仕組みではありません。現在の労災保険法第1条はやたらに複雑怪奇な条文になってしまっていますが、1947年4月に制定された時の第1条は次のようになっていました。

第一条 労働者災害補償保険制度は、業務上の事由による労働者の負傷、疾病、癈疾又は死亡に対して迅速かつ公正な保護をするため、災害補償を行い、併せて、労働者の福祉に必要な施設をなすことを目的とする。
第二条 労働者災害補償保険は、政府が、これを管掌する。

このように、政府が管掌する労災保険制度が直接労働者の災害を補償するのです。労働基準法の使用者の災害補償責任に基づく補償給付自体を保険対象としているわけではありません。これは、実は労災保険法制定過程で変遷した点です。

最初に厚生省事務局が作成した労働者災害補償保険金庫法案要綱は、戦前の労働者災害扶助責任保険法と同様に、使用者の災害補償責任を保険対象とする自賠責型の制度でした。

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