EUの最低所得勧告(濱口桂一郎)

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■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政(著者:濱口桂一郎)

本紙で以前指令案の段階で紹介したEUの最低賃金指令は、去る2022年10月19日に正式に採択され、2024年11月15日までに加盟国の国内法に転換すべきこととされました。一方、つい先日の2023年1月31日には、EUの最低所得勧告が採択されています。正式名称は「積極的な統合を確保する十分な最低所得に関する理事会勧告」(COUNCIL RECOMMENDATION on adequate minimum income ensuring active inclusion)です。minimum wageが労働法分野であるのに対して、minimum incomeは社会保障分野であって、直接重なるわけではありませんが、広い意味での生活保障の一環として密接な関係にあるとも言えます。指令ではなく勧告なので拘束力はありませんが、加盟国の制度設計に対する一定の圧力という効果はあるでしょう。なお、欧州労連等の意見を踏まえ、欧州議会は昨年の決議で、本勧告は拘束力ある指令とすべきだと主張していましたが、それは受け入れられていません。

ここでいう「最低所得」とは、「十分な資源に欠ける人の最後の手段(last resort)としての非拠出型(non-contributory)で資産調査型(means-tested)の安全網(safety nets)」と定義されています。日本で言えば生活保護に相当する社会扶助のことです。しかし、本勧告はその狭義の最低所得の水準や適用範囲、アクセスについて規定するだけではなく、労働市場への統合やエッセンシャルサービスへのアクセスなど、貧困問題を抜本的に解決するための取組みについても規定を設けています。日本でも近年、生活保護制度の柔軟な運用や生活困窮者自立支援法など類似の問題意識が登場してきていることを考えると、本勧告の内容はいろいろと参考になる点が多いように思われます。

最初に勧告するのはタイトルにもある通り所得支援の十分性(adequacy)です。加盟国は人生の全ての段階で尊厳ある生活を保証するため、金銭給付と現物給付を組み合わせた十分な所得支援をしなければならず、その水準は十分な栄養、住居、医療及びエッセンシャルサービスを含む必要な財やサービスの金銭価値以上でなければなりません。なお興味深いのはここで、女性や若者、障害者の所得保障と経済的自立のため、世帯の個々の世帯員が最低所得を請求できるようにすべきと述べていることです。

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