フリーランスに係る募集情報提供事業規制(濱口桂一郎)

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■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政(著者:濱口桂一郎)

昨年秋には、岸田内閣の目玉政策の一つとしてフリーランス新法が国会に提出されるという触れ込みでしたが、結局諸般の情勢から提出されずじまいとなりました。もっともその内容は、昨年9月13日から27日にかけて行われた「フリーランスに係る取引適正化のための法制度の方向性」というパブリックコメント用のペーパーに示されています。その大部分は、一昨年(2021年)3月のフリーランス・ガイドラインの延長線上に、業務委託の際の条件明示義務、報酬の支払期日、事業者の禁止行為などを規定するもので、主として公正取引委員会が所管し、中小企業庁が実施に関わる領域になります。

ところが、このペーパーの中には、募集情報の的確性やハラスメント、ワークライフバランスといった、これまで雇用労働者を対象に進められてきた政策をフリーランスにも拡大するような項目も盛り込まれています。この部分は、労働法の対象拡大という観点からも大変興味深いところであり、今後法案の形で国会に提出されたときには細かく分析する必要があります。今回はそのうち、職業安定法の2022年改正で大幅に拡充された募集情報等提供事業に対する規制のフリーランスへの拡大と位置づけられる「募集情報の的確性」の部分について、職業安定法の歴史と労働行政におけるフリーランス政策の展開の両面から概観してみたいと思います。

職業安定法は有料職業紹介事業に対して極めて厳格な規制をする一方、求人情報を扱う事業に対しては何の規制もありませんでした。1980年代にリクルートをはじめとする求人情報誌が急速に発展すると、虚偽・誇大広告による被害が社会問題となり、求人情報誌規制が行政内部で検討されました。しかし、1985年改正職業安定法は、第42条第2項として緩やかな努力義務を規定するにとどまりました。その後、労働省の民間労働力需給制度研究会は、労働者募集広告事業者に対する様々な規制を提言しましたが、中央職業安定審議会民間労働力需給制度小委員会では労使間で意見がまとまらず、手がつけられないままとなりました。その後議論の焦点は有料職業紹介事業のネガティブリスト化や手数料の自由化など規制緩和にシフトし、1997年省令改正、1999年法改正、2003年法改正など、規制緩和の時代が続きました。

この流れが変わり始めたのが2017年法改正です。引き続く規制改革の動きと並んで、特に若者を中心に問題化していた求人トラブルをめぐって、法規制の動きが急速に進展し始めたのです。雇用仲介事業あり方検討会や労政審労働力需給制度部会の議論を経て行われた同改正では、求人者も含めた労働条件明示義務の強化や求人申込みの拒否、さらには募集情報等提供事業に係る緩やかな努力義務が導入されました。

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