【新春特別寄稿】男女賃金格差の開示をめぐって(濱口桂一郎)

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既に多くの方が周知のように、昨年7月8日の女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令の改正により、常時雇用する労働者が301人以上の事業主には、「男女の賃金の差異」が情報公表の必須項目となりました。これまで301人以上規模の事業主は、「女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供」として、「採用した女性労働者の割合」や「男女別の競争倍率」、「役員に占める女性の割合」など、8項目のうちから1項目以上を選択して公表する義務がありましたが、今回の改正により、この他に男女の賃金差の公表が新たに独立の項目として義務づけられました。

ただ、そのやり方はいささか大まかな感を与えるものとなっています。同日付で出された厚生労働省雇用環境・均等局長の通達(雇均発0708第2号)は、まず労働者を男女別で正規・非正規に区分し、4種類に分けた区分ごとに、それぞれの総賃金と人員数を算出します。総賃金とは、賃金、給料、手当、賞与など、使用者が労働者に支払うすべてが該当します。4種類に分けた区分ごとに算出した総賃金と人員数をもとに、年間平均賃金を算出します。また、すべての労働者の年間平均賃金も男女別に算出します。そして、労働者の区分ごとに男性の平均年間賃金に対する女性の平均年間賃金の割合を算出します。こうして、各企業が公表すべき男女の賃金の差異のイメージは次のようなものになります。

公表すべき男女の賃金の差異のイメージ

もっとも、これだけではなにが格差を生んでいるのかさっぱり分かりません。そこで、説明欄を活用して事業主による任意の追加的な情報公表ができるようになっています。その例として、同通達は①自社における男女の賃金の差異の背景事情の説明(女性活躍推進の観点から女性の新規採用者を増やした結果、前々事業年度と比較して相対的に賃金水準の低い女性労働者が増加し、一時的に女性の平均年間賃金が下がり、結果として前事業年度における男女の賃金の差異が拡大したといった事情)、②勤続年数や役職などの属性を揃えた公表(勤続年数や役職などの属性を揃えてみた場合、雇用する労働者について、男女の賃金の差異が小さいものであることを追加情報として公表)、③より詳細な雇用管理区分において算出した数値の公表(正規雇用労働者を更に正社員、職務限定正社員、勤務地限定正社員及び短時間正社員等に区分したうえで、それぞれの区分において男女の賃金の差異を算出し、追加情報として公表)、④パート・有期労働者に関して、他の方法により算出した数値の公表、⑤時系列での情報の公表を挙げています。

さて、こうした政策はなぜ昨年突然出てきたのでしょうか。直接的な出発点は、一昨年政権に就いた岸田文雄首相が直ちに「新しい資本主義実現会議」を立ち上げたことにあります。11月8日には早速「未来を切り拓く「新しい資本主義」とその起動に向けて」と題する緊急提言を取りまとめました。しかし、その中には「男女間の賃金格差の解消」という項目がありましたが、具体的には「企業に短時間正社員の導入を推奨するとともに、勤務時間の分割・シフト制の普及を進める」、「保育の受け皿の整備や男性の育児休業の取得促進等を通じて、仕事と育児を両立しやすい環境を整備する」、「正規雇用と非正規雇用の同一労働同一賃金を徹底し、女性が多い非正規雇用労働者の待遇改善を推進する」といった施策が並んでいるだけで、開示の話はありませんでした。この時、労働界からただ一人この会議に参加している芳野友子連合会長は、「男女間賃金格差の主な要因は、男女の平均勤続年数や管理職比率の差異はもとより、女性の職務・職域によるキャリア形成の遅れ。男女雇用機会均等法・女性活躍推進法の履行確保の徹底が男女間賃金格差の解消につながる」と発言していました。

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