家政婦は女中に非ず…のはずが…(濱口桂一郎)

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去る9月29日、東京地裁はある判決を下しました。訴訟類型は遺族補償給付等不支給処分取消請求事件。よくある労災認定訴訟ですが、普通と違っていたのは、死んだ原告の妻が家政婦だったということでした。当日の東京新聞の記事を引用しますと、

 家事代行の長時間労働の末に亡くなった女性=当時(68)=が過労死だったとして、労災を認めなかった国の処分取り消しを女性の夫(75)が求めていた訴訟の判決で、東京地裁(片野正樹裁判長)は29日、請求を棄却した。労働基準法は家事労働者に適用しないと同法が規定しており、女性が家事をしていた時間は、過重労働かを判断する上での労働時間の算定から省いた。家事サービスのニーズが増える中、多くの担い手が法で守られない状況が放置される。
 労基法は家事労働者には「適用しない」と明記。労働時間の上限規制や死亡時補償などの対象外になっている。ただ、厚生労働省は業者に雇われて家庭に派遣されている場合は対象になるとの通達を出している。
 女性は2015年5月、訪問介護・家事代行サービス会社の斡旋(あっせん)で、寝たきり高齢者のいる家庭で24時間拘束され、1週間働いた後に急死した。地裁は女性が働いた時間のうち、介護業務は同社に雇われ派遣されて担ったが、家事については家庭との直接契約になっていたと判断。待機時間などを含む1日19時間の業務中、労働時間は家事の時間を算入せず介護業務の4時間30分のみとして、「過重業務していたとは認められない」と結論付けた。
 原告側は裁判で「家事労働者が労基法で守られないのは憲法の『法の下の平等』に反する」として、労基法の規定自体が憲法違反に当たるとも主張したが、地裁は判断を示さなかった。
 原告の夫の代理人の明石順平弁護士は「長時間働いた実態を見ず形式的に介護の時間だけを労災対象と判断した」と批判。夫は「高齢者のため献身的に働いた妻を労働者と認めてほしかった。これからも闘う」として控訴の考えを示した。

同紙は翌日もこの問題を追及しています。

 長時間の家事労働の末に亡くなった高齢女性について、東京地裁は労災認定をしなかった国の決定を容認し、女性は過労死と認められなかった。全ての労働者を保護するはずの労働基準法の例外規定が、厚い壁となって立ちはだかる。国は問題の放置を続け、現場の働き手から改善を求めて切実な声が高まっている。

同紙を始めとして、多くの人々はみな、この問題を労基法116条2項の適用除外規定の是非の問題だととらえています。その問題が重要であるのはその通りで、労基法制定時にもその是非が問題になりましたし、1993年5月の労基法研究会報告「今後の労働契約法制等のあり方について」でも、次のようにその見直しが提起されていました。

…これについては、近年発展してきたシルバーサービス産業に雇用されるホームヘルパーなど家庭における介護業務を企業が請け負い、その企業に雇用される労働者が家庭において就労する場合については労働基準法の適用があることとの関係等から、現状において、家事使用人であることを理由として、労働条件の基本法である労働基準法を全体として適用除外とするまでの特別の理由は乏しくなってきたと考えられる。…労働基準法の適用除外はできる限り少ないことが望ましいことから、家事使用人についての適用除外の規定は廃止することが適当である。その際、就業の場所が家庭であることを踏まえた履行確保のあり方及び家事使用人に係る労働時間に特例を設けることの是非について検討すべきである。

今後この問題が議論される際にも、それは専らこうした文脈で議論されることになるのでしょう。もちろんそれは間違っているわけではありませんが、実はこの問題には、圧倒的に多くの人々の視野からこぼれ落ちているある側面があるのです。それは、本件のような、家政婦紹介所から紹介されて個人家庭で就労している家政婦というものは、そもそも労働基準法が適用除外している「家事使用人」に該当するのか?という根本問題です。

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