裁量労働制の見直し(濱口桂一郎)

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■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政(著者:濱口桂一郎)

現在、厚生労働省の労働政策分科会労働条件分科会は山のような課題を積み上げられた状態にあります。官邸から下りてきた案件として2020年8月からデジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の是非が議論され、労働側の強い反発で2021年4月にいったん議論が中断した後、2022年3月から再開されていますが、あまり進展はないようです。そこに、労働基準局がここ数年にわたって研究会等で検討を重ねてきたテーマが続々と提起されてきています。2022年4月には、有期契約労働者の無期転換ルールの見直しといわゆる多様な正社員の雇用ルールに関わる「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書と、いわゆる解雇の金銭解決に関わる「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」の報告書が出されていますし、同年7月には「これからの労働時間制度に関する検討会」の報告書が出されています。今のところまずは無期転換ルールから細かい議論を始めているようですが、他の議論がいつから始まるのかはまだよく見えません。

その中で、もっとも新しいトピックが裁量労働制を中心にした労働時間制度の見直しの議論です。これは曰く因縁がありまして、2018年の働き方改革に係る法改正時に、その中の労働基準法改正案の原案には、長時間労働是正のための時間外上限の設定、高度プロフェッショナル制度の導入に加えて、企画業務型裁量労働制の対象者に提案型営業を加えるという改正も含まれていたのです。その法案提出に先立つ国会審議の中で、当時の安倍首相や加藤厚労相が、裁量労働制で働く人の方が一般労働者よりも労働時間が短いというデータもあると述べたのですが、その根拠となったデータに疑問が呈されたため、国会提出法案から削除されるといういきさつががあったのです。

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