■連載:人事担当者がわかる最近の労働行政(著者:濱口桂一郎)
近年労働問題の新たなフロンティアとして、フリーランスがクローズアップされてきていますが、労働者類似の自営業者という問題は古くからあります。その中でも建設業の一人親方は、日雇健康保険の擬制適用や労災保険の特別加入制度など、社会保障制度も含めた議論の焦点ともなってきました。そして現在でも労働基準監督の現場では、監督官が直面する労働者性事案の半数近くが建設業の一人親方に係る問題なのです(拙報告書『労働者性に係る監督復命書等の内容分析』(2021年)参照)。
そうした建設業の一人親方問題に対し、建設業を所管する国土交通省が初めて本格的に対策に乗り出したのが、コロナ禍の真っ盛りの2020年6月に設置された「建設業の一人親方問題に関する検討会」(座長:蟹澤宏剛、有識者3名(水町勇一郎・川田琢之)、建設業団体16名)です。同検討会は2021年3月に中間取りまとめを公表しましたが、そこでは、社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインを改訂して、明らかに実態が雇用形態であるにもかかわらず、一人親方として仕事をさせている企業を選定しない取扱いとすべきと述べています。また、一人親方の処遇改善策として、適正な請負契約の締結や適切な請負代金の支払について周知し、特に一人親方に工事を請け負ってもらう場合には、工事費の他に必要経費を適切に反映させた請負代金を支払うよう元請企業が下請企業に指導せよ等としています。
その後も同検討会は続けられ、2022年3月には社会保険の加入に関する下請指導ガイドラインの改訂案を了承し、同年4月に改訂ガイドラインが発出されました。このガイドラインには、上記中間とりまとめの考え方が取り入れられており、建設行政からの一人親方対策を明示したものとなっています。まず「第1 趣旨」において、「建設業界として目指す一人親方の基本的な姿とは、請け負った工事に対し自らの技能と責任で完成させることができる現場作業に従事する個人事業主であ」り、「その技能とは、相当程度の年数を上回る実務経験を有し、多種の立場を経験していることや、専門工事の技術のほか安全衛生等の様々な知識を習得し、職長クラス(建設キャリアアップシステムレベル3相当)の能力があること等が望まれ、また、責任とは、建設業法や社会保険関係法令、事業所得の納税等の各種法令を遵守すること、適正な工期及び請負金額での契約を締結していることや、請け負った工事の完遂がされること、他社からの信頼や経営力があること等が望まれる」と述べています。
その後に付けられた「また、令和6年4月1日以降、建設業においては労働基準法の時間外労働の上限に関する規制が適用されることからも、請負人として扱うべき者であるかについてより適切な判断が必要となっている」という一文も、一人親方の労働者性問題に神経質にならざるを得ない理由を示しています。建設業の一人親方の労働者性が問題になるのは現場で労災事故が起こったことがきっかけになることが多いのですが、そこで労働者性ありとされると、それまで問題にならなかった労働時間(残業代の未払い)問題が首をもたげてくるからです。
改訂ガイドラインでは、下請企業選定時の確認・指導等として、「登録時に社会保険の加入証明書類の確認を行うなど情報の真正性が厳正に担保されている建設キャリアアップシステムを活用して確認を行うこと」が求められていますが、重要なのは「一人親方の実態の適切性の確認」という項目です。やや長いのですが、建設行政として労働者性問題に切り込んだ初めての文書として、以下に引用しておきます。
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