ILO(国際労働機関)は5月5日、コロナ禍での世界の労使交渉の動向を分析した報告書を発表した。マスクをはじめ防護用衛生用品が欠乏するなか、最も重視された交渉の議題は「労働安全衛生」であり、「病気と障害」「労働時間と休暇」が続いた。報告書は、コロナ禍で深刻化する事業環境の悪化や格差拡大に対し、労使の団体交渉による規制がその影響を緩和し、回復に向けた適応力(レジリエンス)を高める役割を果たしていると分析している。
報告書は「社会的対話2022:包摂的で弾力的かつ持続性ある回復に向けた団体交渉(仮訳)」と題し、「社会的対話」に関するILO旗艦レポートシリーズの初回として労使交渉をとりあげた。
経済発展の度合いが異なる80カ国の労働協約や慣行、125カ国の法的・規制的枠組みを分析。労使の自発的な交渉プロセスは、賃金の不平等削減や男女間賃金格差の縮小に貢献していると指摘した。調査した労働協約の59%が、同一労働同一賃金の確保、育休など家族のための休暇、職場でのジェンダーに基づく暴力などへの対応について、労使共同で宣言し実行する姿勢を反映していた。
労働者の賃金や労働時間、その他の労働条件が労働協約で決められている割合(労働協約適用率)は、98の調査国で平均すると35%だった。国によって割合の差は大きく、ヨーロッパ諸国の多くやウルグアイでは75%以上だが、データが入手可能な国の約半数は25%以下だった。
■団体交渉は応答性の高い規制ツール
報告書は、2020年1月から2021年12月までコロナ禍の約2年間における500を超える各国の労働協約のテキストを分析。その特徴を以下の5つの大きなテーマに分類している(詳細は表を参照)。
①団体交渉慣行をコロナ禍の状況に適応させる
②サービスの維持、最前線の労働者の保護
③安全で健康的な職場の確保
④雇用の維持、収益の保護、事業継続の保護
⑤将来のテレワークとハイブリッド労働環境の形成
コロナ禍での公衆衛生対策など労働安全衛生や、事業継続・雇用維持が喫緊の交渉課題となったほか、出社とテレワークを組み合わせたハイブリッド型の勤務形態、私生活と職場の区分を定める「つながらない権利」などが盛り込まれた協約も多かった。
団体交渉は「応答性の高い規制ツール」であるとし、コロナ禍をはじめ不確実な見通しに直面した際、事業の継続性を維持するために必要なトレードオフ(昇給を抑制するなどの賃金緩和:wage moderation など)を踏まえ、労働者の安全衛生や雇用確保など優先順位の高い課題を交渉テーマとしていると指摘。特に女性や移民など脆弱な立場の労働者の保護を拡大し、パンデミックのなかで深刻化する格差拡大や不平等といった影響を緩和する役割を果たしているとした。
ILOのガイ・ライダー事務局長は、「団体交渉はパンデミックの間、労働者と企業を保護し、事業の継続性を確保し、雇用と収益を維持することによってレジリエンスを構築する上で重要な役割を果たしている」と述べている。