Yはどうしても東京に行きたかった。東京の最低賃金は1000円以上だ。Yの県の最低賃金は800円。東京なら20日、8時間労働で16万円のところ、Yの県で同じ時間働くと12万8000円。3万円の差はあまりに大きすぎる。
高校生を卒業したばかりで16万円なんて、東京は凄い、とYは考えた。
東京に来ても、高校の時からアルバイトをしていたチェーン店での仕事を決めた。単調なアルバイトだが、Yは新しいことに取り組むのが苦手だった。
最低賃金が地方で異なるのは、生活費の違いにあると聞いたが、東京は生活費が高いなんて思わなかった。東京は温かい。Yの住んでいた県と違い、光熱費がかからない。どこでも、車を利用していたYの町、ガソリンも高騰していた。確かに、物の値段は安かった。しかし、NHKの受信料や、携帯の料金は同じなのだ。
東京に出てきて1年でコロナ禍となった。Yの店はフード業界の中堅として、コロナの影響をモロに受けた。冠婚葬祭の利用客が多いYの勤務先では、シフトが急に入らなくなった。
生活費も底をつきはじめるが、バイト先に行くしかない。「シフト労働者に休業手当を支払え」との張り紙が張られるようになった。先輩がシフト労働者も休業手当が支払われると教えてくれたが、店長は、バイトにはそもそも休業はないと取り合わなかった。
Yは先輩に組合活動に勧誘された。中央線の商店街を抜けると、そこには、アルバイト労働者が入る組合があった。
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